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ATENZA

M/C後

5段AT

FWD

2.26L

232万円(税抜)

アテンザが2005年6月23日に大幅な変更を受けた。

変更点は以下のように多く、これまで不満に思っていた点はほとんど解消され、ようやくこのクラスの標準レベルになった。

  • ATは4段変速から5段変速に、MTは5段変速から6段変速に
  • ステアリングホイールが欧州仕様と同じく前後に動くように
  • インパネが安物のシルバー塗装からちょっと見栄えのするグレーのプラスチックに
  • 23Zのブレーキロータ径を16インチホイール用(アクセラより小さく、もちろんモンデオよりも小さい Fr:286mm、Rr:284mm)から17インチホイール用(Fr: 320mm、Rr:314mm)に
  • サンルーフが単品でオプション選択できるように(2.3Lのみ)
  • 2.0LエンジンにVVTが装着された

23Sグレードで価格は2万円アップしたが、文句は一切ない(これまでは5万円高くてもいいから5段ATをつけてほしいと言っていたので)。何故こんなに待たせたのかということには文句があるが。

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運転席に座ってみると、

ステアリングホイールの前後移動量がかなり大きく、従来と打って変わってポジションが設定しやすくなった。待ちに待った欧州仕様と同じ装備である。シートもセミバケットタイプという名を冠するものに変更された。これはややタイトな造りで、肩の周りが変に窮屈になっており、肩甲骨の保持を目論んでいるような気がする。背もたれは、肩の辺りは変に硬いが、腰の辺りはとても柔らかくて腰部分の沈み込みが非常に大きく、クルマを動かす前から嫌な感じがした。ランバーサポートを調整する機能はない。

エンジンは始動時から軽快な音を聞かせてくれた(オドメータは8km)。ATのシフトレバー周辺の意匠はM/C前と比べて少し変わったような気がしたが、操作方法は変わりがなかった。

店舗の敷地内で動かしてみると、ステアリングホイールが重くなったような気がしたが、タイヤ空気圧が分からないので確証はない。

渋滞の公道に出て走らせてみると、ATは可能な限り高いギアへ変速したがる設定になっていることが分かった。Dレンジであっても現在使用しているギアポジションが表示されるのはとても便利で(ポルシェと同じ)、これを見ながら走行した。1速は発進時の短時間使用に留め、2速も通り過ぎた後はほとんど出番がなかった。止まりそうな速度からの再加速時にも、スロットルをあまり大きく開けなければ3速が維持されているという具合で、停止する直前のギアポジションの表示も3速から1速へと変化し、不思議なことに2速は出てこない。

いつものように箕面の山にクルマを進めて観察をすることにしたが、天気が良く、猿が出ていたので、相変わらず遅い前車に行く手を阻まれる低速試乗となった。

ATをDのままにして走ってみると、上りも下りもほとんど3速をキープ、たまにスロットルを開けて速度が上がれば4速に入る程度で、あまり変速しないことが分かった。道路の状況をクルマがモニターし、不要なシフトアップをしないような設定になっているのだろう。

せっかくの5段ATであるが、今回の試乗で5速に入ったのは、山にたどり着くまでの一般道で60km/hまで速度を上げられたわずかな時間だけであった。山道の下りではスロットルOFFであったため自動的にエンジンブレーキを働かせる制御が入り、速度を高めても5速までシフトアップすることはなかった。

トルコンのロックアップクラッチは4速でもわりと低回転(低速度)で締結することが分かった。これはなかなかの見識である。3速や2速が同じようになっているのかは確かめられなかったが、5速と4速という日常的によく使用するギアでロックするというのは効率の点で良い結果を生み出すだろう。燃費が11.6から12.6km/Lに向上した背景には、このような細かな改善の積み重ねがあると思われる。

Tipシフトを試してみると、意外にシフトショックが大きかった。ギアのステップ比をまだ調べていないが、もしかすると変速比が大きいのかもしれない。それとも、変速時間を短くしようという意図があるのだろうか。2速固定で3500rpmまでなんとか回したが(前車が遅すぎてそれ以上回せなかった)、ギア固定時のロックアップクラッチの作動は確認できなかった

ステアリングの感触は今回、大きく変わった。これまでは抵抗感のないスッキリした良いフィーリングであったのに、この23Sはネットリと重いフィーリングになっていた。なんとなく最近のBMW1や3の低速時の気味の悪い手ごたえを真似た感じで、印象は良くなかった。路面の情報を全然伝えてこないのに重いというのは最も嫌いなセッティングで、何ら面白いものではない。これがM/C後アテンザの最もポイントが低い部分であった。

ブレーキはなんとか左足で踏める配置であった。発表時(2002年)の試乗記では左足で踏むことができないと書いたが、変更されたのか、体が対応しただけなのか、実際に新旧を比較してみないと何とも言えない。23Sにおいてブレーキシステム(ローター径など)に変更があったかどうか知らないが、ペダルタッチが硬くてなかなかコントロールしやすいもので、フィーリングは良かった。ややサーボが強い(ペダル踏力が小さくても強く利く)ものの、これは好みの問題と言える範囲だろう。

ブレーキング時の姿勢は、フロントの重さゆえノーズダイブが大きいと感じられた。リアサスペンションはリアブレーキ作動時に沈み込むようなジオメトリーに設計されており、BMWと同じように減速時に前後とも沈ませる姿勢にしたいという意図が感じられるのであるが、実際にはうまくいっていない。リアブレーキへの制動力の配分が小さすぎるのだろう。もっとリアの負担を増やしてもいいと思う。せっかくEBD(前後のブレーキ配分を変化させる装置)が付いているのだから、しっかり活用すべきである。

乗り心地は明らかにしっかりしたものに変わった。「しっかりした」という言葉の中には「硬い」というニュアンスも含まれており、一般の人には硬く感じられると思う。個人的な感想では「快適なクルマ」に属するが、とても柔らかいフォレスターの乗り味(乗り心地は悪いが硬くない)を硬いという人がいる日本において、アテンザ23Sは明らかに硬い部類に入る。高い速度で不安感を抱かずに走ることを重視しているのだろう。

シートはM/C前と比べると背もたれが高くなって感触が良くなったがカーブの多い道を走るとサポート性が良くなかった。肩甲骨をサポートするようなせせこましい形は様々な体型に合致するとは考えにくいので、もっと大きく肩を包み込むような形状にしてもらいたい。また、シートの座面角度が調整できないため、尻の部分だけが座面に乗っかっており、宙に浮いた脚に圧がかからないため、疲れた

M/C前は通常走行時にエンジン(排気)音を聞かせないようにしていたと思うが、M/C後はいつでも排気音が聞こえるようになった。まるでBMWのような思想であるが、一般には受け入れ難いと思う。

店に戻り、駐車スペースにクルマを入れようとしたところ、予想よりもタイヤが切れないことに違和感を覚えた。最小回転半径5.4mという数値はインプレッサよりも0.1m大きいだけなのに、あまりの違いに戸惑ってしまった。

色々と不満なところもあるが、ようやくアテンザが商品性という面でまともになり、他人に勧めることができるクルマになった。ただし、自分ではまだ買いたいと思わない。マツダのクルマ作りへのこだわりがまだまだ薄いと感じてしまうからである。

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現時点での改善希望は次のとおり。

  • ワゴンには全グレードに対してサイドカーテンエアバッグがオプション設定となる。セダンのほとんどのグレードに標準装備されるのに、どうしてワゴンには標準で付かないのか。安全装備は共通でいいのに、いつまで待てばまともな考えが社内で通るのだろう。日本の安全基準が変わらないとダメなのか。23Sワゴンにおいては、163,000円(税抜)でESP、撥水ガラスおよび車高維持リアサスと同時オプションとして付けられる。
  • ATは手動選択モード(Mポジション)にするとロックアップクラッチが作動しないというのは馬鹿げている。Dレンジでの賢明なセッティングと比べて違いが大きすぎる。日産(Z33など)のように3500rpmぐらいでロックするように設定すれば、効率良く速く走ることができるだろう。

参考として4段ATのロックアップクラッチ作動/非作動時の駆動力の例を見ていただきたい。4速ギアはロックアップクラッチを作動時の線(点線)および非作動時の線(実線)の2本が描かれている。両方を見比べると、120km/hあたりで点線の駆動力が実線の駆動力を上回っているのが分かる。つまり、このエンジンの場合はフルスロットルでは3000rpm以上で有無を言わさずロックするといいのである。スロットル開度がわずかなときには、トルコンスリップのロスを抑えるため、もっと低回転でロックしてもいいし、そこから加速のためにスロットルを開けばロックを解除するというのも手である。

  • ATをDレンジにしているとき、2速の出番が少なすぎる。せっかく5段のギアがあるのに、通常の走行中に変速回数が少なすぎて効率良く走っていると思えないのである。ギア比を見直す必要があるのなら実施して、もっと頻繁に変速してガソリンを有効に使って欲しい。
  • パワーステアリングの設定をM/C前のすっきりしたフィーリングに戻して欲しい。
  • メーター内の照明に明暗のバラツキがある。燃料のEと水温のCの辺りが異常に明るくて、見ただけで安物感がとても強いのである。常に照明がついているだけに気になって仕方がない。素人作品ではないのだから、もうちょっと考えて欲しい。
  • ATの変速プログラムはDレンジで1パターンしかないのは不便である。スポーツ走行用に少なくとももうひとつ、できれば計3パターンぐらいのプログラムを備えて欲しい。マツダはBMWの真似が好きなようなので、同じようにDレンジから横にレバーを倒したときにスポーツモードにして、前後に動かして始めてTipシフトが可能になるようにしてもいい。
  • ヘッドランプは相変わらず4眼式になっているが、フォグランプがバンパーに備わるモデルでは4眼のうち1つがダミー(中身は空っぽ、単なる飾り)なのである。意味のない装備は客を馬鹿にしている。バンパー部のフォグランプなど無くしてすっきりさせると空気抵抗を減らすことができるし、余計なコストも掛からなくて済むのである。4眼を全部使うように改善してもらいたい(セダン23EXのみ4眼使用)。こんなところに余計なコストが掛かっていると思うと、情けなくなる。
  • シートは手動式リフターで全体を上下に動かすことができるが、それに加えて前端を持ち上げる機能を追加してもらいたい。それにより座面の面圧を適正にすることができ、体が安定して疲れにくくなるのである。こんな機能はすでに1985年発売のファミリア(BF)に付いていて(前端3段階調節&後端無段階調節)、なかなか良かったのである。どうして退歩するのだろう(アテンザでも電動調整シートには前端を持ち上げる機能がある)

ATENZA

M/C後

6段MT

FWD

2.26L

226万円(税抜)

上記のように5段ATを搭載したアテンザはなかなか出来が良かったが、やはりATはエンジンの性能を十分に生かしていると思えないこと、また、シフトスケジュールが自分の好みに合わないことから、MTも試してみることにした。

試乗車は5ドアハッチバックの23S。ハッチバックとワゴンはともに「Sport」という愛称が付くことから分かるようによく似た意匠であり、荷室部分が異なる程度である。それによる重量差は20kgである。また、MTとATの間には40kgの差がある。つまり、上記のワゴン23S(AT)と比べると、今回の5ドアハッチバック23S(MT)は60kgも軽い。

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運転席からの眺めはワゴン23Sと何ら変わらず、トランスミッションの操作系が異なるだけであった。エンジンを始動するためには、最近の流儀のとおりクラッチペダルを奥のほうまで踏む必要があり、その際、ペダル踏力が軽いことが分かった。

シフトレバーのストロークはやや長く、ヨーロッパ流の設定であった。操作力を軽減するためにストロークを短くすることを避けたのだろう。カタログに書かれたショートストロークという言葉を信じてはいけないが、まあ長すぎて困るほどでもない。レバーの位置はアクセラのように遠いと思うことはなく、適正な操作ができる場所に存在し、ギアポジションも分かりやすいので、MTの操作が面倒だと思うことは一切なかった。

1000rpmまで慎重にエンジン回転を高めて発進してみると、クラッチのつながり具合は適当で、気を使わずに動かすことができた。公道では発進時にエンジン回転を1000rpmに保つのはアクセラと同様に難しく(電子制御スロットルは反応が分かりにくい)、すぐに1500rpm近くまで回ってしまうのが難点であった。

低回転でシフトアップを繰り返したり、高回転まで引っ張ってみたり、いろいろ試してみると、このエンジンはフラットトルクで扱いやすいことが再認識できた。エンジンのマネジメントは良く、1速や2速でアイドリング状態のままトコトコ進み、そこからスナッチを起こさずに加速することも可能であった。

フルスロットルでの加速性能は大したことがなかった(0-100km/hは8.7秒)が、音やフィーリングはなかなか軽快で気持ちの良いものであった(参考:BMW320i-MT 9.0秒、BMW325i-MT 7.0秒)

ギア比の設定は特異で、ワイドレシオとクロースレシオが混在している(低速ギアから順に変速比を見ると、53.3-71.1-78.6-81.3-90.2%)。1速と2速の離れ具合はこの数値ほど意識はしなかったが、2速と3速はエンジンを低〜中回転で運転した際の変速時にやや離れているような気がした(7000rpmまで引っ張れば5000rpmに落ちるだけなので、実はさほど変ではない)。Topギアは高く設定されているが、80km/hで十分に使うことができた(2000rpmぐらい)。ギア比はヨーロッパ仕様と同一(ファイナルも含む)である。

乗り味はモデル初期の「軽快だけれど軽薄」という印象から変わり、落ち着いた味と軽快さの両方が感じられる設定になった。この5ドア車においてはステアリングのネチッこい重さはどういうわけかあまり気にならなかった。上記ワゴンと比べて60kg(フロントは40kg)の車重の違いがそう感じさせたのだろうか。脚の硬さは、乗り心地とロール感を考慮すると、私の基準ではちょうどいいと感じたが、珍しいことに「柔らかすぎる」という人もいたらしい。インプレッサWRXに乗っている人が試乗に来たという話を聞いたが、その人が話したのかもしれない。

凸凹の多い路地を走ってみると、室内の空気がモヤモヤとしたこもり音に支配された。停車すると途端に静かになるので、そのギャップに気持ちが悪くなってしまった。荷室と居住空間が同一のハッチバックやワゴンではこもり音が問題になることが多いというが、最近はあまりそんなクルマに出会うことがなくなったため、アテンザはまだまだ対策がうまくできていないと感じてしまった。

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現時点での改善希望は次のとおり。

  • ワゴンと5ドアハッチバックにはリア周りにダイナミックダンパー(共振を抑えるための錘)を新設したというが、室内のこもり音を消すには至っていない。どれほどの重さの錘をぶら下げているのか分からないが、そんなもので単に重量を増加させてしまうのなら鉄板を厚くしたり補強を入れて共振を抑えるほうがついでに剛性アップになって良いと思うのだが、それは素人の浅知恵なのだろうか。日産と同じような小手先の音振対策(Z33カブリオレには20kgもの錘が前後オーバーハングにそれぞれ積まれているという)はクルマ好きの人間のやることではない。RX-7やロードスターでグラム単位の軽量化を謳っているのに、一方でこんなことをしていたら会社のポリシーが疑われる。
  • 6段MTのギア比をもっとバランス良く振り分けてもらいたい。90%を超える(1.11を割る)ような接近した変速比(5⇔6)はあまり使い道がない。5000rpmシフトで4500rpmに落ちるだけなんて馬鹿げている。

ATENZA

M/C後

4WD

6段MT

【1回目:渋滞路でちょい乗り】

マツダから久しぶりにターボ車が発売された。VW/Audiのように直噴ターボとなったMZRエンジンはさぞ圧縮比が高いものと想像していたら、その値はわずか9.5に過ぎず、これには幻滅した。VW/Audiよりも単位当たりのトルク値が大きいことから分かるように、高い過給圧が掛けられているのは想像できる。そして、その分だけ圧縮比を下げざるを得なかったという言い訳もできる。しかし、9.5という圧縮比は何ら特別ではないレガシィ用EJ20ターボと同じ数値である。

EJ20といえば、次のような特性があり、圧縮比を高めにくいのである。

・ ボアが大きい → 燃焼させにくいのでノッキングが起きやすい

・ 直噴ではない → 気化熱を使いにくいのでノッキングが起きやすい

・ 2.0Lで206kWを出す → 過給圧が高いのでノッキングが起きやすい

EJ20ターボに対してMZR2.26Lターボは200kWを出すに過ぎず(単位当たりの出力はEJ20の86%に過ぎない)、そして直噴という有利な条件を備えているのに、どうしてEJ20ターボと同じ圧縮比なのかとても理解できない。

マツダの宣伝用資材にはライバル車としてレガシィしか載っていない。レガシィの欠点は35kgmという低い最大トルク、5段しかないMT、MT車は前後トルク配分が固定、ESPが付かない、ブレーキローターが小さい、サイドエアバッグがオプションになる等の説明があるが、なんだかあまり説得力がない。それよりもアテンザは横置きエンジンのFWDをベースにしているということで魅力が薄れてしまうというのが一般的なイメージではないだろうか。

市場投入後、東京では試乗車が広く用意されたが、関西ではなかなか乗ることができなかった。2006年になってようやく待望の試乗車が近くの店に準備されたので、ちょっと試してみた。ただし、ライバルとされるレガシィターボの5MTには乗ったことがないので直接比較はできない。スバルはすべて試しているような気になっていたのだが。。。

外観はボンネットやグリルの辺りがノーマルとの違いを出しているが、それ以外は至って普通である。4眼ランプのうちフォグランプが入るべき内側から2つ目はダミーであり、フォグランプは下の方に付く。これは5ドアやワゴンと同じやり方であり、馬鹿げている。セダン23EXのように4眼とも機能を有するものにして、現状のフォグランプの位置には穴を開け、ブレーキを冷却することを視覚的に感じられるようにすれば意味のあるデザインであると見てもらえるのに、マツダは客の心理が分かっていない。ブレーキやホイールはノーマルよりは大きくなっているが、これらはすでにM/C後の23Zで使われているのでマツダスピードアテンザ用に誂えた物というわけではない(ホイールデザインは専用だがサイズは変わらない)。販売戦略を考えるなら、マツダスピードアテンザは特別なモデルであることを強調すべきと思うのであるが、どういうわけか標準的なクルマと部品を共有している。客が何を期待しているのかまったく分かっていないので呆れてしまう。

室内も至って普通である。速度計の目盛りがちょっと多いが、それだけである。驚くほど安い価格設定がなされているので何も言えないが、もっと特別なモデルであることを宣伝する材料がなくては、そのうちに忘れ去られてしまうのではないかと心配する。

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今回の試乗はとんでもない渋滞の中で行ったので、ほとんど述べる事柄がないのが残念である。

クラッチペダルを踏んでみると、ストロークがたいそう大きく、そして軽い。まるでレガシィ3.0Rのようである。しかし、細かく見ていくと軽いのは踏み始めと奥の方に偏っており、途中はちょっと重い。ミートポイントは奥から戻してきて重くなり始める場所にあり、踏み応えが変化するし、反力の強い範囲でストロークをコントロールしなくてはならないので、微妙な力加減が非常に困難であった。

スロットルバルブの反応は他のマツダ車(電子制御スロットルのモデル)と同様に人工的な色が濃いもので、僅かにペダルを踏んだだけで1500rpmぐらいまで即座に回転が上がってしまい、そして少し戻すと900rpmぐらいまで落ちてしまう。1100〜1200rpmぐらいでクラッチミートしようとしてもなかなかうまくいかず、きれいに発進するのが難しかった。踏み始めだけはもう少しデリカシーのある設定にして欲しい。なお、1100rpmでうまくクラッチをミートできた場合でも発進時のトルク感が極めて弱く、乗りにくいエンジンだなと思った。レガシィよりも排気量が大きく低速トルクがあるはずなのに、どうなっているのだろう。こんなことなら、6段MTよりも6段ATのほうが扱い易いのではなかろうか。また、圧縮比を9.5という中途半端なものにせず、VW/Audiのように10を越える設定にして、その中で最大限の過給圧を発揮できるようなチューニングをして、もっと低速トルクを出す設定のほうがいいと思う。その結果、出力が180kWになってもいいではないか。サーキットを走るクルマではないので、街乗りで使いやすいことを優先すべきである。それはGOLF GTIに乗ればよく分かる。GTIは全開では全然速くないのに、街乗りではとても扱い易くて速いのである。

クラッチとスロットルが使いにくいので、渋滞路ではとても気を遣い、疲れてしまった。スロットル特性は踏み始めをもっと穏やかにして、クラッチは重さが途中で変化しないようにしてもらいたい。まあ欠点ばかり述べても面白くないので良いところを挙げると、ギアが多い4WDでありながら噛み合いの遊び感が少なくて渋滞時でもギクシャクしないところに品質の高さを感じた。

一旦走り出して2速や3速で加減速するときはエンジンがシャープに反応し、ターボが付いていることを意識することなく運転できた。ハーフスロットルで4000rpmぐらいしか回さなかったので、エンジン性能をほとんど出していないが、速さ感の演出は上手であった。それはスロットルペダルの微小な踏み込みでスロットルバルブが大きく開くことを示しているので、やはり好きになれない。安っぽい演出をしなくてもフルスロットルにすれば充分に速いはずなのに、どうしてこんな客を馬鹿にしたセッティングにするのか理解できない。

シフトレバーはBMWレガシィ3.0Rのようにストロークが過大でカッチリ感がなく、フィーリングが良くなかった。操作力は充分に軽いので、もっとストロークを詰めても何ら問題はない。いったい誰がこんなトラックのようなシフトを好むのだろう。不思議なことをするものである。

試乗後の帰り道で我がインプレッサ(GC8-C)に乗ると、スロットルの反応の素直さ、クラッチペダルのストロークの少なさと重さの変化の少なさ、シフトレバーの短いストロークとダイレクト感が心地良いと思った。GC8のC型といえばクラッチおよびシフトレバーのストロークが大き過ぎると不評を買ったモデルであり、D型ではかなりストロークが詰められたのである。乗り慣れたクルマとはいえ、そんなC型をもってして心地良いと思わせるマツダスピードアテンザはいったい何なのか。

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成人の日に乗ったマツダスピードアテンザは良い面がほとんど見られなかったため、空いた道でもっといろいろなことを試せるよう日を改めて乗りたい。

 

【2回目:町から山へ】

1回目は渋滞の中にちょっとした空間を見つけて乗っただけなので、インターフェイスが体に馴染んでいない箇所ばかりが気になった。今回はクラッチのミートポイントを足が最も感じやすいような位置にシートポジションを設定して試乗に臨んだ。具体的には左足をいっぱいに伸ばしてもクラッチペダルが奥に突き当たらないようにしたのである。それによって手前過ぎるミートポイントが違和感のないものにできる(所有したら自分でペダル位置を奥に移動するだろう)。

試乗開始時にすでに辺りは暗くなっていたので、観光客が去ったと思われる箕面の山を目指した。山への分岐点の信号待ちで先行車がすべて別の方向に行くのを確認したので 、今日は自由に走れると思ったのに、すぐに「走る煉瓦」に追いついてしまった。仕方がないので低回転でのフレキシビリティをチェックしようと考え、カーブで最低1500rpm程度まで落ちる3速に固定して超スローペースで走ってみた。現代のエンジンで1500pmというのはそんなに低回転ではないので、当然のように問題なく走ることができた。そこで、4速に入れてどれぐらい頑張るかチェックしてみたところ、1100rpmからの加速はちょっと厳しいということが分かった。

途中でUターンして下ろうとすると遥か前方にクルマが見えた。車間を空けようと思ってしばらくゆっくり走っていると、あろうことか追いついてしまった。仕方がないので、1速でアイドリングのまま走れるかどうかチェックしてみた。すると800rpmを維持してトコトコと進むことができた。そこで、2速でも同様にしてみると、エンジンはかなり苦しそうになり断念した。23SのMT車では2速でも問題なくアイドリング走行が可能であったので、NAとターボのエンジン制御の違いを体感することができた。圧縮比が9.5であっても、ターボエンジンは低速トルクを出しにくいのかもしれない。街乗りで低回転を使って発進しようとしてストールしそうになることが多かったのは、やはりアイドリング近辺での力が足りないことが原因だったのである。

止まりそうな速度でしばらくテストをして前方が空くのを待ち、それからおもむろに加減速の激しい運転を行い、フィーリングを確かめてみた。

ブレーキを強く踏んでみると、フニョッとしたタッチに「なんじゃこりゃ」と感じた。これまでの試乗で誰かが激しい走りをしてヴェーパーロックでもしたのだろうか。もしもこれで正常というのなら、ちょっと情けない。

ステアフィーリングはとってもマイルドで、路面状況を伝えてくれないものであった。切れば切るほどグイグイ曲がってくれるのはいいが、手応えが軽薄で、まるでゲーム機のようなフィーリングであった。マツダ流の洗練とはこういうことなのだろうか。

加速感は、ターボラグをあまり感じることがなかったが、ターボが利いているはずの負荷、回転域においてもレスポンスが鈍く、とってもマイルドなフィーリングであった。圧縮比を低くして過給圧を高めてパワーを稼ごうという設定をした割には実際に速くはないところに中途半端なものを感じる。0→100km/hが6.6秒という数値は330iのAT仕様と同じであり(330i-MTは6.3秒)、なんとも情けない。

シートはノーマル車と同じ安楽仕様であり、大きい横Gが掛かる山道ではまったく用をなさない代物であった。RECAROを付けることを求めるわけではないが、ハイレベルのクルマを作ったのなら、それに合わせたシートが欲しい。

脚の感触はロール感が少ない割りに乗り心地がとても快適で、これは良く出来ていた。ボディの補強が色々と入っていると聞くが、それの恩恵があるのかもしれない。

全般的に見ると、マツダスピード(MS)アテンザというのはスポーティという印象がまったく残らないクルマであった。これは安楽に高速移動できるツアラーであり、ワゴンボディにターボエンジンとATをコンビで積んで、GTという名前で売れば、レガシィの客を奪えるかもしれない。トヨタにできなかったレガシィ叩きがマツダによって実現されることも夢ではない。

ライバルと目されるレガシィB4と比べると、MSアテンザは切れ味が鈍くて面白味に欠ける。B4にもいろいろと欠点はあるが、運転していて楽しい気持ちにさせてくれるだけまだ魅力的である。乗り心地はB4よりもMSアテンザのほうが良いと感じたが、それだけでMSアテンザを選ぶ人は少ないだろう。

ちょっとクラスは違うが、1週前に乗ったGOLF5 GTIを思い出して山道でのフィーリングを比べてみることにしよう。GTIはノーマルよりちょっとスポーティに仕立てられたGOLFであり、MSアテンザも同様の成り立ちのクルマと考えられる。GOLFもアテンザもノーマル車は普通のファミリーカーである。そういう観点でGTIとMSアテンザを比較してみると、これはもうまったく次元が違うと言わざるを得ない。GTIのステアリングは適度な手応えをもって操舵角に応じた反応を示し、スロットルやブレーキは運転手がこれぐらいの反応が出るだろうと思ったレベルより少しだけ大げさにクルマが反応して気持ちを高めてくれるのである。乗っている時にはなんということのない特性に思えたGTIの走りであるが、実のところかなりスポーティで運転手を楽しませるようにしっかりと作りこまれていたのである。自動車は性能の数値では語ることができないと再認識した。

MSアテンザはまだまだ数値で見える性能を重視したクルマであったことが残念なのである。それを裏付けるようにレガシィとの比較資料では数値で見える差が主な訴求ポイントとして挙げられている。もちろんフィーリングは紙の上で説明できるものではないのだが、本当にクルマ好きの人に買ってもらおうと思うのなら、もっとフィーリングを重視したクルマ作りを考えてもらいたい。私が最初に「圧縮比が9.5であることに幻滅した」と書いたのは、「数値(パワー)を追ったな」ということを感じたからである。MSアテンザは、インプレッサやランサーのようなサーキットを走って一番になるという類のクルマではないのである。それならば、GOLF5のように数値よりも実用域のフィーリングを求めて欲しかった。

開発目標はAudi S4(旧タイプ2.7ターボ)であるという話を雑誌で読んで、MSアテンザに高い期待をしていたのであるが、今日の試乗では強いショックを受けて帰路についた。速くない、楽しくない、嬉しくないというクルマではどうにもならない。洗練とはいったい何なのだろう。素人には分からないものなのか。

マツダがMSアテンザに続いて発売した新型MPVにはMZR2.26L直噴ターボ(180kW)が6段ATとのコンビで搭載される。これはなかなか朗報である。このエンジンはMSアテンザから少し過給特性を変更しただけの同じ物である。アテンザにも同じように6段ATとMPV仕様エンジンをセットにして各ボディに積むといいだろう。そうすることによって、スポーツカーではなく、上質なGTカーが出来上がると思う。マツダのスポーツの乗り味を持つターボ車としては、まだ見ぬアクセラに期待を膨らませるしかない。

ATENZA

M/C後

5段AT

FWD

214万円(税抜)

アテンザの2.0Lモデルに初めて乗った。これまでに試した2.26Lモデルとの違いを明確に表現するには記憶が遠すぎるので、比較することはできない。M/C時に2.0LエンジンにはVVTが追加されている。

セダンの主な客層はオジサンであると想定して作られているようで、17インチホイール装着車はなく、フロントグリルもメッキ風の落ち着いたものになる。5ドアやワゴンと明らかにターゲットを分離しているのが面白い。

20Eは2.0Lの上級モデルであり、電動シートが備わるので、座面の前側を上げて体圧を広く分散させるような設定にして、ステアリングホイールはテレスコ機能を使って手前に引き寄せた。ポジションはなんとなく前かがみになり、最初はしっくりこなかった。

それでは、街乗りに出掛けてみよう。

アテンザのATモデルはポルシェやVWと同様に走行中のギアポジションが常に表示され、現在のギアが分かるのは良い。しかし、20Eは発進後にすぐに4速まで進み、基本的にはそこからギアを動かしたくないという設定が感じられた。

80km/hぐらいまで出してみるとギアは5速(TOP)に入り、エンジン回転は2000rpmを切る。このときの走行音はとても静かで、乗り心地は快適であった。アテンザがこんなに静かに走るという印象はなかったが、セダンはボディ後部の隔壁が1枚多いので遮音性に優れているのだろう。もしかするとオジサン向けに排気音も絞っているのかもしれない。

ゆっくり走ってTOPギアに入る最低速度を確認すると、それは約60km/hであった。しかし、そこからダウンシフトなしに体感できる加速をするのは不可能である。Dレンジではスロットルを開けるとすぐにダウンシフトしてしまうので、低回転域を使うことはできない。Tipシフトを使ったらギアを固定できるのかもしれないが、今回は試すことができなかった。

発進直後にTipシフトでギアを1速に固定してフルスロットルにしてみると、快い音色でエンジンは吹け上がり、レブリミッタが働いた。アテンザは自動シフトアップ機能を持たないことを思い出し、焦ってアップシフトをしようとレバーを押したが反応がない。マツダはBMWと同じでアップは引くのであった。これでかなりロスをしたので、2速ではリミットに達するまでに前車に追いついてしまった。BMW320i(E90)やレガシィ2.0R(BL5)は個性的な排気音で楽しませてくれるが、アテンザ20Eは2本出しマフラーの割りに音の演出が少なかった。セダンでは排気音を絞るため にデュアルサイレンサが用意されているのかもしれない。

さまざまな速度域でさまざまなスロットルの踏み方をしてみたが、やはりこの5段ATは4速ギアを使うのが好きなようであった。5速からはすぐに4速にダウンするのに、4速からのダウンシフトは抑え込まれてしまい、かなりスロットル開度を大きくしても4速を維持 する。つまり、セッティングは「走り」よりも燃費重視のようである。320iは運転手と気持ちが通じているかのような自動変速をして喜ばせてくれたが、マツダのZOOM-ZOOMの精神はそこまで一貫したものではなさそうである。まあATが5段ではギア数が不足で、6段ならやりようがあるというものなのかもしれないが、詰めの甘さを感じてしまった。 コストが掛かってもやらねばならないことは徹底的にやり遂げるBMWと比べて、日本車はコスト意識が強すぎると思うのである。

 

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