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BORA

 

日本ではJETTA→VENTO→BORAとモデルチェンジのたびに名前が変わったが、アメリカでは現在もJETTAと呼ばれている。

名前を変えても日本で売れないのは変わらない。

1994年にGOLFVのVR6(狭角V型6気筒)と4気筒モデル(CLiだったか)とを比較試乗したことがある。4気筒モデルは会社のクルマ(AE104カローラ)と比べて良いところが見つけられないぐらい低レベルであったが、それに比べてVR6はシート、サスペンション、エンジン音、エンジン振動、トルク感、ステアフィールのいずれをとっても桁外れに良くできており、強く感銘を受けた。現在までに一番気に入ったクルマであると言っても過言ではない。それでも買わなかったのは値段設定が高すぎたから。

GOLFが四世代目になってから日本でVR6が姿を消したのは非常に残念であった。それがBORAのV6-4MOTIONとして久しぶりに復活したので見に行った。しかし、車両は展示のみで試乗車がなかった。GOLFVのVR6をベースにヘッドを4バルブにしてパワーアップしたエンジン、新しく採用された6段MT、そしてハルデックスカップリングを使った4MOTION(AWD)を確かめてみたかったのだが、残念である。

試乗車がないのは仕方がないので、別のグレードに乗ってみた。

V5

2.32L

325万円

V5 2.3は革シートや木目パネルで高級感を出している。GOLFと兄弟でありながら高級イメージを作ろうという考えが見える。ボディサイズが小さくホイールベースが短いのでリアの足元はやや狭いが、トランクは非常に広い。通常走行での乗り心地はしっかりとしたフィーリングで良いものであるが、凸凹が連続する舗装の悪いところへ速いスピードで入ってみるとボディがワナワナと捩れる感触があり、剛性は実際にはさほど高くないのではないかと感じた。ステアリングのフィーリングはFFらしからぬものでトルクステアはなく良好。前車軸に大きい荷重が掛かっているのはステアフィーリングに有利に働くのかもしれない。5気筒エンジンは低速からトルク感があり、高回転まで回しても快い音を聞かせてくれた。試乗車には4段ATと革張レカロシートが付いていたが、現在は5段ATを採用し、シートは普通の革張りシートに変更されている。

2.0L

269万円

2.0L 4気筒モデルはV5と比べてエンジンフィーリングまったく異なり、そのせいで高級イメージは完全に損なわれている。エンジンのフィーリングはゴルフVと変わっていない。ゴルフWやビートルには乗ったことがないが、2.0Lはこのクラスの主力エンジンということになっているはずである。日本車を知っている(エンジンに少しでもこだわる)人なら、2.0Lモデルは絶対買わないと思う。とにかく回り方の質が低いのである。また、タイヤと足回りが柔らか過ぎるのも安定感がなくて良くない。V5と同じ程度の設定で何の問題もないと思うが、差をつける目的はいったい何なんだろう。差別化をして上級モデルを売ろうという魂胆ならもう止めたほうがいい。エンジン以外には差を付けないのがプレミアムブランドとして求められていると思う。残念ながら今の時点でFFのBORAを買いたいのなら、少々値は張るがV5を選ぶしかない。

GOLF(W)

GLi

2.0

4AT

GOLF(4代目)に試乗するのは広島・三次でのマツダ比較試乗会に続き2回目である。

アクセラの比較対照車として用意されていたGOLFは、試乗記に書いたとおり操作系のタッチがとても曖昧で、同行者ともどもその「常軌を逸した感触」に不思議な気持ちを抱いて帰ってきたのであった。

それから半年が経ち、GOLF IV に乗って真相を確かめるチャンスは今回(モデルチェンジ間近)を逃すともう残されていないと考え、宝塚の販売店で試乗車に乗ってみることにしたのである。

この試乗車は長く使われていたようで、1万kmも走っていた。外車はこのぐらいの距離を走ると調子が良くなってくるので、なかなか良い頃加減のクルマに乗ることができたと思う。

まずは渋滞の街乗りでフィーリングを確かめてみたが、3000rpmシフトで走った際にはエンジンのゴロゴロ音は気にならず、これは若干重くて締まりがなく頼りないステアフィーリングを持つ何の変哲もない普通のクルマであると感じた。

次に山に向かってクルマを進めた。遅い前車の後にくっついて上り坂をトコトコ走るとき、2000rpmぐらいでエンジンのゴロゴロ音が気になった。きつい上りでは、ATをDに入れておいたままでもスロットルON-OFFにかかわらず 2nd ギアを維持してくれたので走りやすかった。このような古いクルマでも、登坂制御などのプログラムがATには組み込まれているようである。頂上で折り返して下り坂を少しだけ勢いよく走ってみた。すると、路面の感触を伝えてこないステアリングには不満を感じたが、ブレーキタッチやサスペンションの動きにはさほど違和感を感じなかった。履いていたタイヤは最近の同クラスのクルマに比べて細い(195/65R15)ため鳴き始めるのは早いが、全然怖さを感じることはなかった。

GOLFは動きが鈍重で操作系に曖昧な感触を有するクルマであることは確かであるが、広島で感じた異常なフィーリングは感じられなかった。不思議なことである。

6月には待望の GOLF V が出るということなので、アクセラやAudi A3とどのような差があるのか比べてみたい。

GOLF(X)

1.6 FSI

6AT

【1回目】

待望のNew GOLFである。雑誌での評判は上々だが、本当のところを確かめるためにちょっと乗ってみた。

1.6LモデルのEは日本では廉価版である(欧州には1.4Lもある)。外見は色々と差別化されている(ホイール、ハンドル、シートなど)が、本質は日本車によくみられる明らかな安物ではなく、ATは6段変速、エンジンはFSIとなり、重要なところに技術的差別は存在しない。こういうことが今流行のブランド物としての価値を高めている。VW/Audiはなかなか上手になったものである。

5代目になってエンジン音が非常に静かになった。エアコンをONにして冷却ファンが回っていても、車外騒音はとても静かで驚いた。

車内も静かで、昔乗っていたGOLFUの面影(エアコンONのままDレンジで停止したらダッシュボード全体がブルブル震えたものである)はどこにもない。外装と同様に内装にも精緻な作りこみが感じられる。しかし、プラスチックの素材感は安っぽく、硬い表皮があちこちに使われているのが気になった。これは兄弟のAudi A3では意識しなかったことであり、大衆車のためのコストダウンが感じられた。

まずはATのセレクタをDに入れて軽く流すと、ステアフィールがA3を思い出させてくれた。軽くて滑らかでとても気持ち良い味に好感を持った。しかし、A3に乗ったときに感じた「驚くべき滑らかさ」を感じることはなかった。コストダウンのためにパワステはA3とまったく同じではないのかもしれない。

乗り心地は、A3の硬質な味とは異なり、ソフトで滑らかであった。Audiは「スポーツ」のイメージをブランドに込めたいと考えているそうで、兄弟車であっても味付けを変えているのである。GOLF Eはソフトな脚でありながら急旋回時のロール感は少なく、なかなか絶妙なバランスのセッティングではないかと個人的には思った。

6段変速のATがこのクラスに搭載されるというのには大きな驚きである。VW-Audiの英断もすごいが、アイシンAWも素晴らしい製品を作ったものである。果たして多段ミッションが小排気量のエンジンを生かしているか、確かめてみた。

Dレンジで走行すると、メーターパネル内には現在のギア位置が表示される。ポルシェと同様にこれはなかなか気が利いている。シフトアップ時は変速が始まるよりも少し早めに表示が切り替わるので、自動変速のタイミングが分かって良い。低速ギアのギア比は6段ATにしてはやや離れているが、変速ショックは大きくなく、なめらかに変速してくれた。

発進直後にフルスロットルで加速してみると、1st ギアは45km/h、2nd ギアは75km/hぐらいまで引っ張ってアップシフトした。かなりギア比は低く、そのおかげで1.6Lの非力さをあまり感じずに済んだ。DレンジでTopギア(6速)に入るのは80km/h付近であった。Dレンジから一段引くとSレンジになり、少しだけアップシフトのポイントが高くなるが、Sレンジでの制御がどのようなものか、詳しいことは短時間の試乗では分からなかった。Tipシフトもほとんど使わなかったので、何も述べることができない。

単独走行では1.6Lエンジンがもたらす加速フィーリングに大きい不満を抱くことがなかったが、前方にBMW Z4(排気量不明)を見かけたのでちょっと追いかけてみた。すると、こちらは全開で追っているのに、Z4は特に急加速をしている風でもなく穏やかに車間を広げ去って行った。いくら6段ATで効率よくエンジンを使っても、所詮 1.6Lの排気量では6気筒のBMWを追うことはできなかった。

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【2回目】

2.0 GTに乗るために店を訪れたのであるが、それは別の店舗に貸出中で、試乗車は前回と同じ 1.6 E であった。

そこで、もう一度乗ってATの制御について集中的にチェックしてみた。

まずはDレンジでの走行である。スロットル開度が小さい状態で何気なく加速してみると、あっという間にシフトアップが起こり、ゆっくりした速度(40km/hぐらい)なのにメーター内の表示は「5」 となっていた。いつの間に2、3、4を通り過ぎたのか分からなかった。ただし、このATは「5」まではすぐにアップシフトするが、街乗りでは「6」にはなかなか入らない。

そこで、「6」に入るタイミングを探るため、ギアポジションを見ながら加速していくと、約70km/hで「6」へ変速した(もっと穏やかに加速していけば60km/hぐらいで「6」に入るだろう)。そして一旦60km/hに速度が落ちても「6」を維持しつつ緩やかな加速を受け付けてくれた。

このAT、Dレンジでは出来る限り高いギアを保持しようとするようで、上り坂でも「5」まではすぐにアップする。そして、ちょっとスロットルを開いたぐらいではダウンシフトしない。「5」で50km/hぐらいの定速で走っているとき、ちょっと加速しようとして踏んでもあまり反応が出ず、グーッと踏み込んでいってようやく「4」に落ちるという感じである。Dレンジは燃費を最優先に考えたセッティングなのだろう。

途中、Alfa 156 JTS 2.0 を追いかけてみたが、加速性能の差は歴然としていた。差をつけられた理由のひとつは1.6Lエンジンが非力なことであるが、もうひとつはDレンジでのダウンシフトのレスポンスが遅すぎることである。カーブの立ち上がりでフルスロットルを与えても、加速が得られるまでにかなりの時間を要したのである。

Sレンジを選んで走ってみると、通常使用するギアがDレンジよりもおおよそ1段低くなり、スロットル開度に対する変速反応が敏感になるのが分かった。そして、Sレンジでは「6」に入ることはないという。加減速を繰り返すのなら、Sレンジで走るとレスポンスが良くなって走りやすいだろう。

次回こそは2.0LのGTに乗ってみようと思う。エンジンと脚の違いは乗り味にどのように反映されるのだろう。

GOLF(X)

2.0 FSI

6AT

ようやく2.0 GTに乗ることができた。1.6 Eと比べると、外見の違いは16インチアルミホイールと2cmダウンのサスペンションぐらいで、ほとんど差はない。

前席はスポーツシートと呼ばれるサイドサポートがやや大きめの椅子が備わるが、実質的には1.6 Eのスタンダードシートとあまり変わらない。

内装ではエアコンがフルオート制御になるのがGTの特長である。左右独立の温度調節機能を備えており、運転席側と助手席側の風の温度を別々に設定できる。これはCセグメントの車輌でもAlfa 147に備わり、もはや珍しくないのであるが、GOLF Xでは温度調節とともに風量も左右別々で変化するのが新しい。例えば、運転席側の温度を助手席側より大きく下げると、右側のベンチレータから出る風が冷たくなるとともに風の強さも同時に変化するのが分かった。モーターは一つしかないが、風量を分配する装置がついているのだろう。これはなかなか高度な配慮である。

走らせてみると、1.6 Eとは色々なところが異なることが分かった。まず感じたのは、ステアリングが明確に重くなっていることである。滑らかさを残したまま、太いタイヤの影響を超える手応え(重さ)になっていると思われた。次に乗り心地であるが、路面のギャップを乗り越える際のショックがかなり大きいと感じられた。社外品のハードで短いスプリングを使っているかのような乗り味で、あまり褒められたものではなかった。ただし、A3(SPORT)ほど当たりは硬くなかった。GTという名称、重いハンドル、硬い脚、低い車高という情報を寄せ集めて想像すると、スポーティに走ってくれるイメージを抱くが、走り味としては特にスポーティと感じることはなかった。GTを名乗っていても、クルマ全体の動きは穏やかなGOLF Xそのものであり、なんとなく中途半端な味付けであった。スポーティな動きを求めるなら、2.0FSIターボのGTIを待たねばならないだろう。

6段ATの変速制御は1.6 Eと同じように「5」まではとにかく早くシフトアップした。変速ショックは少なく、とても滑らかなのが相変わらず素晴らしいと思った。1.6 Eと違うのは、トルクが太くなったことによってスロットル操作に対する加速反応が明確になり、また、2.0Lのトルクを生かして低回転を維持したままで加速をこなすことが可能になったことである。そして、ファイナルギア比が高くなっているのに、街乗りでも「6」に入る機会が多かった。平坦路で約60km/hになると、早くも「6」に入るので、静かな走行が可能であった。

参考としてフルスロットルの加速も行ってみた。当然ながら1.6Lとは比べ物にならないトルク感があったが、2.0Lとしては標準的な加速感であった。意外に感じたのは4000rpm以上の伸びの良さである。2.0 FSIは実用的な低回転トルクを備えながら中速回転で盛り上がるトルク特性も持っており、「なかなかやるなあ」と感心させられた。GOLF Wの時代には考えられないことである。

1.6 E以外には燃費計がつくので、この機会に街乗りでの燃費を計ってみた。すると、約8.5km/Lという数値が得られた。6段AT、FSIという燃費向上策も街乗りではあまり功を奏していない。高速道路の巡航ではどれぐらい伸びるのだろう。

GOLFの2.0LにはGTとGLiがあるが、GLiの乗り心地は1.6 Eと同様と推測できるので、ファミリーカーとして使うことを考えると GLiのほうが良いのではないかと思う。A3にも間もなく5ドア(スポーツバック)が出るが、GOLFとの価格差は大きいと思われるので、競合することはあまりないだろう。

GOLF(X)

2.0 T-FSI

6ATDSG

341.25万円(税込)

 

本革シートは21万円(税込)

【1回目:革シート】

雑誌の試乗記で褒め言葉しか見当たらないGOLF XのGTI。本当にそんなに良いのか、乗って確かめてみた。

外観は普通のGOLFとあまり変わるところはなく、前端が少し異なるだけである。あからさまに目立たせようとしていないところに好感が持てる。

乗り込むと、ステアリングホイールの形状がいびつなことに驚かされた。実際に握ってみると、いびつに見えた形がなかなか掌に刺激的で良く、こういうのも面白いものだと思った。昔使っていたNARDI CLASSICというステアリングホイールは「どこを握っても同じ感触である」ことに価値を持っていたが、いまや「どこを握っても感触が異なる」ものも存在する時代になった。

シート調整はこのクラスに共通する手動式である。前後スライドが細かく調節できるのが良いところである(BMWも同様)。背もたれの角度はダイヤル式、高さはラチェット式レバーでともに無段階に調節でき、運転姿勢をきっちり設定することへのこだわりが感じられる。座面の角度は変えられないが、前側がかなり高くなっており、尻から大腿にかけて面圧が分散されるのが良い。インプレッサと似た座面の角度は私にとって違和感がなかったが、万人に受けるかどうか疑問は残る。

DSGは、ラジオを聴きながらゆっくり走っているときには何ら違和感のない自動変速を実行してくれた。ところが、ラジオを消し、発進時の様子を意識して観察してみると、ターボとの相性が良くないことを感じてしまった。少し多めにスロットルペダルを踏んで発進すると、唐突な加速感が感じられることがあったのである。Audi TT 3.2でDSGを体験したときにはそういう問題がなかったことから、クラッチの接続と過給のタイミングが合ってしまうのではないかと想像する。低回転からの過給を可能にした技術が反って悪さをするというのは皮肉であるが、トルク変動の大きいターボ付きエンジンは運転手が的確な操作をしてやらなければきれいに動かないのは昔も今も同じなのが面白い。

いったん走り出せば、Dレンジではどんどんシフトアップして低回転を維持し、少々スロットルを開いてもシフトダウンは我慢し、経済性を重んじる設定になっていた。スロットルをあまり開かなければ60km/hに達する前にTOPギア(6速)に入るし、少々の上り坂でも1500rpmから加速を受け付ける。直噴のおかげで圧縮比を10.3という驚くべき値にすることができ、低回転域からスロットルに対する反応を良くすることができたのだろう。「NAエンジンのような」と言うフレーズを述べるまでには至らないが、こんなにターボらしさを感じないエンジンは初めてであった。

シフトレバーを最も手前に引くとS(SPORT)レンジになり、この状態ではかなり高い回転を維持する。これはDレンジとはまったく別のスケジュールを持ち、3000rpm以下に落ちることがほとんどない。一般的には「SPORT」と称するレンジに設定にしても「DRIVE(Dレンジ)」とさほど変化がないクルマが多い中、これはかなり驚くべき設定である。サーキットで真剣にスポーツ走行をする場合でもSレンジで事足りる。もはやTipシフトなど使う必要がない。2005年に輸入されたモデルにはステアリング近辺にシフトスイッチが存在しないことを悔やんでいる雑誌記事が多いが、ヘタクソが自分でタイミングを見計らってシフトするよりも、自動変速に任せて神経をステアリングやブレーキに集中するほうが速く走れるはずである。まあヘタクソがおもちゃで遊ぶことにまで口を出すつもりはないが。

発進直後にフルスロットルにしてみると、加速感は大したことがなかった。絶対的な速さよりも実用域の使いやすさを真摯に追い求めたエンジンという感じがした。高回転を使って楽しむ類のものではないことから、むやみにエンジンを回して燃費を悪くするような行動に至らないのが良い。とはいえ、山道で遅いクルマを安全に抜き去ることができるぐらいの能力は十分に持っているので、これで不満はない。

エンジン性能と同様に重要なトランスミッションのマナーについては、変速比の差が最も大きい1−2のシフトでさえ瞬時に行われるのはDSGの類稀なるメリットであり、これは通常のロボット操作MT(セレスピード等)では真似ができない。このDSGだけでクルマを買ってもいいと思わせる魅力がある。

穏やかに巡航しているときは排気音が目立たないが、加速体制に入ると途端に低音の排気音が聞こえてくるのがGTIの面白いところである。微妙なところで楽しさを作る演出が上手い。

試乗コースにはカーブが連続する場所も含まれていたが、ステアリングの感触から路面の状態を感じ取ることは難しかった。もちろんタイヤを鳴かせるような走り方をしたわけではないので、滑っているときの手応えがどうなのかといった話はできない。パワステはもちろん電動式であるが、それは一切分からず、VW/Audiの出来の良さを改めて感じた。

GTIの乗り心地は全体的にしっかりとした感触が強く、硬いということはぜんぜん感じなかった。明らかに硬さを感じるGTよりも乗り味は優れていると思った。カーブでのロール感はやや大きいものの不安を感じることはなく、街乗りで使うのなら(サーキットを走らないのなら)何も手を入れないほうがいいだろう。Audi TT 3.2でも脚の良さを感じたが、これだけの脚が作れるというのは、VW/Audiはなかなか大したものである。革シートは滑りにくく、サイドサポートも有効であった。

ブレーキは17インチ用ローターが装着され、単ピストンキャリパには赤い塗装が施される。しょぼいキャリパに色を塗るのは恥ずかしいので止めてもらいたい。ややサーボが強い利き味に違和感があったが、ハイスピードドライビングでは安心感が高まるし、慣れればカックンブレーキを乱発することもなくなるだろう。

GOLF XのGTIは、エンジンとミッションに現在の最高のものを奢っているということだけで価値を感じる。乗り味も尖ったところがなく、さすがに国民車という仕上がりである。GTよりも35万円(税抜)高いが、性能の違いを考えると価格差以上の価値をGTIは持っていると思う。ライバルであるASTRAMEGANEに比べると圧倒的に乗り味が洗練されており、突飛なところがない普通のクルマらしさ(爪を隠しているところ)が魅力である。GOLF Xにワゴンタイプが出てくると、レガシィ等の国産車の市場を脅かすかもしれない。

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【2回目:ファブリックシート】

前回は街乗りおよび緩やかな中速カーブが多い道を走ったが、今回はタイトなカーブが多い山道を目指した。

山に向かう道はDレンジで走った。相変わらず低回転を使うDSGに驚きながらのドライブになったが、上り坂で2速1100rpmからスッと加速体制に入れるというのはインプレッサ乗りから見ると別世界である。

上り坂で信号待ちをする際、DSGはクリープが弱いためブレーキペダルをしっかり踏んでおかないと下がってしまうことが多い。私は左足ブレーキングをするので下がらずに発進することができるが、2006年型から停止位置を保持する機構を備えるようになったので、右足ブレーキングの人でも心配はいらない。今回、左足でブレーキを踏み続けるのが面倒になり、代わりにサイドブレーキでクルマを止めてみたところ、新しいことに気付いた。サイドブレーキとフットブレーキを共に作動させた状態からブレーキペダルを離してみると、エンジン回転が一旦落ちて次の瞬間に前に進む力を感じた。つまり、ブレーキペダルを離すことによってDSGは発進に備えてクラッチを繋ごうとするのである。上り坂でブレーキペダルを放した瞬間に後退してしまうのは、停止中にクラッチ締結力を弱めているからであり、湿式クラッチが減らないような配慮なのだと考えられる。したがって、Dレンジに入れた状態でサイドブレーキのみを使って停止するのは、クラッチに負担を掛けるので避けたほうがいい。

このクラッチの件については、今後もう少し詳しく見ていきたいと思うことがある。DSGを備えたGTIは唐突な発進加速をするという雑誌評価が多く見られ、実際にそのように感じることもあったのだが、どうやらこれはブレーキペダルのリリース直後に起こるクラッチの自動制御のタイミングと関係がありそうである。次回、Jetta 2.0Tに乗るときに検証してみよう。

前回、ステアリングを持ち替える必要のない中速カーブを走った際にはいびつなステアリングホイール形状にあまり違和感を持たなかったが、今回のように忙しく持ち替えるタイトターンにおいてはグリップ形状のいびつさにたいそう違和感を抱いた。走る場所によって最適なステアリングホイール形状は異なるかもしれないが、街乗り用のクルマなら握る場所によって感触が異なるのはあまり良くないと思う。奇をてらったGTI用のステアリングホイールより、New Jettaのようなシンプルな造形のステアリングホイールのほうが好ましい。

山道を元気に走ろうとすると、スロットルペダルは最後まで踏み込むことになった。全開時の加速力はほどほどなので気楽にフルスロットルを踏むことができるレベルなのが良い。カーブが繰り返す場面ではパーシャルスロットルで速度コントロールすることになるが、スロットルペダルの踏み代と力の出方がうまく連動し、ターボラグを感じることなく思い通りの駆動力を得ることができるのは素晴らしい。高圧縮比、低ブースト圧で、手中に収められる範囲のパワーは特別な喜びをもたらすことはないが、実用性が高くて良いものだと思った。ただ、一定ギアでのスロットルON-OFFによる加速レスポンスはとても良いものの、自動ダウンシフト直後の加速にタイムラグがみられるのは不思議な感触であった。こういう場合はSレンジ(自動変速)ではなく手動操作で変速するほうがいいのかもしれない。

山道の途中には路面状態の良くない場所があり、そこを駆け抜けるときに駆動力が一瞬抜けることがあった。GTIにはFWD、高トルク、脚が硬いというトラクション性能には不利な条件が備わっている。それゆえにうまく適合しない場面に遭遇することもある。日常では問題にならないことがスポーティドライビングで顕現するというのはスポーティカーにとって如何なものか。このあたりはR32(4WD)の受け持つ領域なのかもしれない。

今回、かなりのハイペースで山道を走ることによってGTIというクルマをさらに理解することができた。いくらGTIという名を冠していてもVWは安心して乗れることを大事に考えた実用的な国民車であり、非日常の速度に踏み込んでも破綻しないようにできている。怖くないレベルの高性能が安く手に入るので、GOLF Xファミリーの中でGTIのシェアは高まっていくだろう。

 

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