--------------------------------------------------

MPV

23T

6段AT

FWD

280万円(税込)

3代目MPVは、大勢の人や荷物を運ぶありきたりのミニバンではなく、Driverを楽しませるMulti Purpose Vehicleになったというので、ちょっと見てみることにした。ただし、ライバルとされるオデッセイやエスティマには乗ったことがないため、それらとの比較はできない。

試乗で確かめてみたいと思っていた重要なことは、MZR2.26Lエンジンの特性である。直噴エンジン本体はMAZDASPEED ATENZAと基本的に同じものであるが、ターボチャージャを変更しているので、その変化の具合を知っておきたかったのである。

直噴ターボ、6段AT、18インチホイール、8人乗りという売り文句の多いミニバンがわずか280万円で買えるとは、良い時代になったものである。

-----------------------------------------

まずは販売員が運転して適当な場所まで連れて行ってくれるというので、当方は2列目に陣取った。その2列目にはマツダ自慢のスーパーリラックスシートが備わっていたので、特等席と思しき場所の乗り心地を確かめてみよう。

2列目シートのスライド量はかなり大きく、最も後ろまで下げれば、足元にはとても広大な余裕が生まれる。そして宣伝のとおりオットマンをせり出し、ふくらはぎを預けようとすると、ウーン、ちょっと脚と足の居心地が芳しくない。シートクッションの奥行が足りない(短い)ため、膝がクッションよりも大きくはみ出し、オットマンにうまくふくらはぎが乗らないのである。身長160cmぐらいまでの女性なら問題はないと思うが、175cmの私には残念ながら合わなかった。また、脚を前方に伸ばした状態でフラットな床の上に足を置くと、大抵の靴は足の裏が前下がりになるので、うまく踏ん張ることができない。直立状態と同程度の角度で足を乗せられるようなフットレストが床からせり出してくるのなら文句はないのであるが、そういうものが存在しない現状では、オットマンは単に邪魔になるだけである。ゆえに、わざわざオプション装着することもない。もうひと工夫が欲しいところである。

走行中の車内は静かで、乗り味はちょっと硬めながら心地良いものであった。この乗り味は前日にアメリカで3時間ほど乗った(その4日前にも2時間乗った)先代ボイジャー(クライスラー)よりも明らかに振動や揺動が少なく、上質なものであった(ちょっと基準車が古すぎたが、ミニバンにはあまり興味がないので…)。

天井には後席用のエアコン操作パネルが備わり、2列目から操作はしやすかったが、出てくる冷気はどこで作るのか知りたいものである。もちろん販売員は知らなかったが、おそらく前席用エアコンと同じコンプレッサが仕事をするのだろう。このコンプレッサはON-OFFを頻繁に繰り返していたので、可変容量型ではないことが分かった。どうしてマツダは快適性が高まる可変容量コンプレッサを使わないのだろう。2〜3万円のコストアップぐらいなら客は許容すると思うのだが。。

停車中に3列目に移動してみると、なかなかきっちりとしたシートが備わり、大人が特に不満なく過ごせる空間があった。もちろん2列目シートは前のほうに移動しなければならなず、オットマンは使えなくなるが、基本的にMPVは各列の乗員(6名)が窮屈な思いをすることなく長距離ドライブを行うことに何ら問題のない居住性を備えていることが分かった。

運転席に移り、ポジションを合わせようとして驚いた。ステアリングホイールにはチルト機構しか備わらないのである。アクセラ(最初から装着)やアテンザ(M/Cで装着)にはテレスコピック機能が備わるのに、どうして後発のMPVはテレスコを持たないのだろう。これもコストダウンなのだろうか。Driverを楽しませるという宣伝と矛盾する。

ずぼらな運転を想定し、下品と承知の上で窓枠の下の出っ張りに肘をおいてみると、そこは硬いプラスチック成型品で、予期せぬ肘の痛みに驚いてしまった。ものはついでにとダッシュパネルの辺りを触ってみると、すべてが硬いプラスチックであり、柔らかい感触がある部位はドア内張りの取っ手だけであった。これにはガッカリしてしまった。滅多に触らない部分ではあるものの、こんなところで「貧乏臭い乗り物を買ってしまったなあ」と思わせるのは良くない。

ゆっくりとスロットルを開くと、6段ATに組み合わされたターボ付きエンジンは穏やかに速度を増し、静かな走行状態を保つことはたやすいことであった。スロットルを少し多めに開いてもグイッと動くことはなく、ファミリーカーらしいスロットルの味付けがなされていた。また、ターボらしさを感じることもなく、マツダが目標としたMPVならではの特性を理解することができた。セレクタをDレンジに入れておくと意外に早くアップシフトして、かなり低速の走行でもメーター内には「4」の数字が見えることが多かった。

発進直後に2速にギアを固定し、低回転からフルスロットルを与えてみてもターボらしさを感じることなく、フラットな加速感を提供してくれた。加速にはさほど力強さはなかったが、車体の重さを考えると妥当なところだろう。

ステアフィーリングは40km/h程度の街乗りでは軽すぎて落ち着かず、極低速度では重すぎて負担になり、パワーアシストの付け方にバランスの悪さを感じたが、これは単に乗り慣れたクルマとの差異を意識しただけなのだろう。MPVに慣れてしまえば問題はないと思う。

ハンドリングを確かめるためにカーブが連続する上り坂に行くと、とても遅い先行車がいたので、Dレンジに入れたままで追尾した。その時のギアは「4」、エンジン回転は2000rpmで、車内にはタービンが回り始める音が聞こえていた。2000rpmで過給の準備をするというのは、マツダも街乗り用のチューニングが上手くなったものである。

遅いクルマが消えた後、もう一度同じ上り坂のカーブに舞い戻り、3速固定で走ってみた。同乗者が嫌がるほどの横Gを出したり、スロットル開度を大きくして走ったりしてみたが、ミニバンとは思えないほどの安定した姿勢でクリアし、さすがにDRIVER'S MPVと自負するだけのことはあると感じた。

ただし、安定した走りは硬い脚を基に成り立っており、MPVに慣れるに従って乗り心地の硬さが意識に上るようになった。23TはMPV随一のスポーティモデルではあるが、この硬さは家族を乗せるクルマとしてはやり過ぎのような気がする。215/55R18というタイヤはクルマを格好良く見せる効果が高いが、ブレーキサイズが17インチ用でしかないし、17インチホイールでもそんなに格好が悪いというわけでもなく、グリップ性能もさほど違いがないので、215/60R17のタイヤを履くほうが乗り味に有利に働くだろう。

-----------------------------------------

MPVのターボモデルに乗ってみて、小さいターボチャージャによる過給特性が期待以上に良く出来ていることが分かった。この特性はMAZDASPEED ATENZAよりも実用性が高く、好感が持てる。中途半端な現行ATENZAのセッティングはやめて、いや、やめなくてもいいが、6段ATと小さいターボを載せたATENZAも追加して欲しい。

MPVに乗る前には280万円という価格はとても安いと感じていたが、乗ってしまうと色々な部分に「何故こんなにケチ臭い面を明らかに見せるんだ」と文句を言いたくなってしまった。あと20万円出すから、もうちょっと素材や機能を奢って仕上げて欲しい。マツダは早くケチ臭さから脱出しなければならないと思う。このクルマなら300万円でも十分に安いので、それを高いという客は相手にしなくていい。

MPV試乗後に我がWRXを走らせると、リアからの騒音が激しく耳につき、タイヤがパンクしているんじゃないかと思うほどであった。これまで多くのクルマに試乗したが、こんな経験は初めてであった。つまり、MPVはとても静かに走るクルマであったということである。

 

戻る

 

inserted by FC2 system