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Passat

V6 4motion

3.2 FSI

6DSG

439万円(税込)

フルモデルチェンジを行ったパサートが日本にも入ってきた。

モデルチェンジ直前の情報で新パサートはGOLF5がベースになると聞き、内心とてもショックであった。しかし、2005年の秋にドイツで見た新パサートは堂々とした躯体を持ち、少なくとも外観ではGOLFの面影を全く感じないものであったので、少しホッとしたことを思い出す。

購入に至る最重要の動機になるのが立派な外観や内装というのが一般的なので、普通の人には車台がGOLF5ベースであることはどうでもいいことである。しかし、クルマ好きの人間としては、従前のパサートがAudi A4の車台を利用していたことを考えると、格が下の車台(GOLF5=Audi A3)を基に作られた新型を容認するのは辛いものがある。

新パサートにはGOLF5用と同じ2.0FSIおよび2.0T-FSI、そしてGOLF5(R32)用とは異なる3.2 V6 FSIの3種類のエンジンを載せたモデルがある。今回は最上級の3.2V6 4MOTIONに乗ってみることにした。

同じような車格のライバル(3.0Lエンジン搭載)には シトロエンC5(458.6万円)やプジョー407(430万円)がある。これらはFWDで、アイシンの普通のトルコン式6段ATを備えるということを考えると、パートタイムではあるがAWDで、コスト高のDSGを備える新パサート(439万円)は割安に見える。GOLF5をベースにしたことで安く作ることができたのだろう。

内装を見てみると、シートは革張りで、上等に見せるような仕上げがなされていた。まずはリアシートに座ってみたところ、ソフトに包み込まれるような沈み方に高級な感じを抱いた。フロントシートも同じような感触で、どうやらパサートは中型実用サルーンから高級サルーンになってしまったようである。

ダッシュパネルにはウッドが多用され、高級感を抱かせるが、センターには見覚えのあるスイッチ類が配置され、部品共用化によるコストダウンを感じてしまうことになった。また、ハザードランプの赤色ボタンがウッドパネルの中で目立たないことやそのスイッチの周りにこまぎれのウッドパネルが配置されているのは、あまり印象が良くなかった。

エンジンはリモコンキーをスロットに差し込んでそのまま押すと始動する。そしてもう一度押せば停止する。このシンプルな操作はなかなか好感が持てる。日本車のようにポケットにリモコンキーを入れたままでクルマを動かせるズボラな考えもいいが、クルマを動かすにはキーを差し込まなければならないと考えるドイツ人の堅苦しさもいい。

エンジンは排気音が意外に太く吠える。高級サルーンにはちょっと似つかわしくない音だと思うが、BMWを持っていた人なら違和感なく乗れるだろう。

セレクタをDレンジに入れて走り出すと、力強い加速感を抱かせる演出がやや強調された味付けがなされていたが、まあ許容できるスロットル特性であった。発進も変速も極めてスムーズで、しばらくDSGであることを意識しなかったほどである。DSGであることを認識したのは、TOPギア(6th)での巡航から緩加速した際にロックアップが解除されないなあと感じた時であった。DSGならクラッチは滑らないので、ロックアップが解除されてエンジン回転数が上がるということはあり得ないのである。わずかなスロットル操作で活発な走りを見せるスロットル特性の裏に隠された本当の力を確認するため、フルスロットル加速を許容する場所を探した。幹線道路で前方がクリアになった瞬間、スロットルペダルを床まで踏み込み、速さとDSGの制御を確認しようと試みたが、その時、横を爆音君(ケーターハム)が追い越して行き、残念ながらパサートの速さ、ギアが変わる様子や排気音の変化を感じ取ることは全くできなかった。

ステアフィールはGOLF5と同様に繊細なもので悪くなかった。もう少し路面状態を把握できるほうがいいかなとも思うが、高級感を出すためには雑味を遮断するほうがいいのだろう。それに引き換え、乗り心地はちょっと粗く、路面のザラザラを感じることが多かった。これは無理に車体を大きくして重いタイヤを履いたツケが回って来たということなのか。

GOLF5をベースとした新パサートではあるが、新しい技術を導入して差別化も図っている。その一例は駐車ブレーキ関連である。一般的にはレバー式サイドブレーキまたは足踏み式の駐車ブレーキが備わるが、新パサートの駐車ブレーキはボタンを押すだけのワンタッチ式である。すでにAudi A6で電気式スイッチの駐車ブレーキを体験しているので、それと同じ物だと思ったのであるが、実は少し異なる。A6の駐車ブレーキは停車中に使うのみならず、足でペダルを踏めない状態の時に非常ブレーキとしても使えるのである。それに対して、新パサートの駐車ブレーキはあくまで停車中に用いるものであり、走行中にボタンを押しても警告音とともに無視される。ブレーキペダルを踏んで間もなく止まろうという時にボタンを押すと、ガクッと止まってくれたが、これは本来の使い方ではないだろう。

また、ATのセレクタの横にあるAUTO HOLDスイッチをONにしておくと、Dレンジのままで信号で停止すると自動的にロックがかかり、ブレーキペダルから足を離しても停車を維持できる。発進しようとスロットルペダルを踏むとブレーキは解除されるが、解除の瞬間にはやや引きずり感があり、違和感があった。そして、紳士的な運転でショックなくゆっくりと止まろうとした際、もう少しで止まるというところで自動ブレーキが介入してガクッと止まってしまい、繊細な操作をした足の苦労が台無しになる。このAUTO HOLD機能は一度ONにすると自動では解除されず、信号で停止するたびにブレーキ固定が必ず働くので、クリープを利用したい場合にはその都度解除しなけらばならない。せっかく付けてくれた機能ではあるが、あまり使い勝手が良くないので、利用する人は少ないだろう。

個人的には3.2V6 4MOTIONの乗り心地の粗さが気になったので、ファミリーカーにするのなら乗り味の優しいシトロエンC5を選びたくなる。なお、新パサートには動力性能に不足がなさそうな2.0T(365万円)もあり、これは3.2よりも74万円も安いので興味が湧く。2.0TはFWDであり、DSGは付かない(アイシン6段ATである)のだが、ジェッタ2.0T(DSGが備わる)よりも6万円高いだけなので、迷う人も多いと思う。

Passat

2.0T-FSI

6AT

↓縦置きではありません↓

365万円(税込)

 

オプション装備:

レザーシート、キセノンランプ等

+346,500円(税込)

新パサートの中で割安感のありそうな2.0Tも見てみることにした。

2.0Tは365万円の値札をつけており、すでに上の方で「安い」と書いたが、実はこの価格で買えるのは日本向けの標準仕様ではなく、わざわざ特別に発注をかける必要のある「素」のモデルなのである。注文と関係なくいっぺんに船に乗せて日本に持ってくる事実上の標準仕様とは、12ウェイ電動調整の革シート、ウッドパネル、HIDランプなどを装着したモデルとなり、その価格は399.65万円である。もし365万円のクルマを買いたいと思ったら、いつとも知れぬ納車を待たねばならない。オプション装着車が日本の標準仕様車になるとは、まるでVOLVOと同じ手法であり、どうも潔い商売とは思えない。まあ、それでも日本向け標準仕様車は価格的にC180K320iと同じようなものなので、ブランドネームは弱いが、室内の広さ、見た目の仕上げの良さ、エンジンパワー等の実質的な魅力でパサート2.0Tを選ぶ人も出てくるだろう。

では、3.2 V6 4MOTIONとの差を考えてみよう。3.2 V6 4MOTIONは439万円なので、だいたい40万円の差となる。最新のVR6-FSIエンジン、先進のDSG、いざという時の4MOTION、駐車用障害物検出装置などがわずかな差額で手に入るのなら、3.2にしてしまおうかなと考えてしまう。

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ともかく、2.0Tに乗ってみよう。試乗車はもちろんオプション付きの日本向け標準仕様車であった。

内装は3.2 V6よりも木目が明るい色になり、セレクタにDSGの文字がないという些細な違いでしかない。2.0Tのトランスミッションは普通のアイシンAWのトルコンATである。

セレクタをDレンジに入れてゆっくり走り出すと、ATの変速はスムーズながら忙しく繰り返され、ジェッタ2.0を思い出すことになった。各ギアであまり引っ張らないのは低速トルクのあるエンジンに対応する設定なのだろう。6段ATは特にトルコンの滑りを感じることもなく、良く出来たものであった。

発進後、2速に入ってからスロットルを多めに開けると、スムーズで力強い加速感が得られた。このFSIターボエンジンはGOLF GTIJetta 2.0Tに載るものと同じであり、それらと同様にNAエンジンのようなフィーリングを示し、ターボの存在を気付かせない上手な設定がなされていた。回転の上がり方は軽やかで、1500kgもの車重を引っ張っていることを感じさせない爽快さがあった。これは同日に乗ったレガシィワゴン2.0GT(BP5D)と比べても、なお軽快であった。レガシィはなんとなく重いものをターボの力を借りてグイグイ押し上げる感じがしたが、パサートはスイスイとライトウェイトカーのようなフィーリングで走るのが面白かった。出力は147kW(200PS)しかないが、普通の人ならこれぐらいで十分だろう。3.2 V6 FSIと比べると、スロットルペダルに対するエンジンの反応はとても穏やかで、排気音もかなり静かであり、クルマにせき立てられないところが好ましい。

2.0Tにはスポーツサスペンションが装着され、他のモデルよりも15mm車高が低い。しかしその乗り味は3.2 V6よりも路面の当たりが柔らかく、どういう意味でスポーツを名乗ったのかを知ることはできなかった。3.2 V6は「粗い」乗り味であったが、2.0Tは「ゆるい」という感じがした。ドイツ車でありながらカッチリしているのではなく、剛性感の高くないおおらかな味付けなので、年配の人にも問題なく薦められる。

ステアリングの操舵力はパーキングスピードでは想像よりかなり軽く、走り出せば想像よりもかなり重くなった。電動アシストゆえ重さの変化を大きくできるのだと思うが、これは慣れれば問題のない範囲だろう。

乗った雰囲気と価格で、新パサート2.0Tのライバルはクラウン2.5ロイヤルサルーン(363.3万円、リンク先はM/C前の5段ATモデル)であると考えてしまいそうになる。VW車はトヨタの販売会社で買うことができ、ガイシャと言えども敷居は高くないので、一度はクラウン以外のクルマに乗ってみるのも面白いのではないだろうか。

 

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