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Saloon

Sport 3.0

6AT

4,095,238円(税抜)

プジョーのクルマは全般に豪奢なイメージはなく、フランス庶民の実用車という印象が強い。406もそれに漏れずシンプルで実直なセダンであった。「4」のモデルが新世代になったので、どのように変わったのか見てみた。

ボディサイズはかなり拡大され、Dセグメントでは最も大きいクルマになったのではないかと思われる。それなのに室内空間は大きくなったようには見えなかった。長いフード、傾斜の強いフロントスクリーンなど、外装のデザインを優先したクルマ造りがなされており、もはや man maximum, machine minimum という効率優先の考え方はそこに存在しない。見栄えの良さでライバルとの差別化を計ることに方針を変更したのだろう。

革張りの運転席に乗り込むと、まずふわりと柔らかく包み込まれる感触があり、なかなか上品な感じがした。シートとステアリングホイールは調整幅が広いため、自分のポジションを取ることが容易で、ポジションが決まると、シートは意外にしっかりと体を支えてくれることが分かった。表層は柔らかいが、中身は結構がっちりとしているようである。

ATはアイシンAW製の6段変速になった。近頃のアイシンAWの躍進は凄まじいものがあり、VW/Audi、PORSCHE、MINI、FORDグループ、Saab、OPEL、PSAなどに6段ATが採用されている。

ステアリングを切ると、久しぶりに「良い感触だなぁ」とつぶやいてしまった。軽く回って滑らかな手ごたえが明確にある、という分かるような分からないような感覚的な部分が私の感性と合致したのであった。どうやら私はこの類の感触が好きなようで、Audi New A3も気に入っている。2.2Lモデルではパワステの機構が異なるので、3.0Lモデルと同じ感触を得られるかどうか分からない。

動き出すと、エンジンの回り方が滑らかで、静かな中にも心地良い音を奏でてくれるのが良かった。ペダルストロークとスロットル開度の設定は独特で、踏み始め部分に極端に鈍感な部分を作って急発進をしないようになっていた。最初はあまりにも穏やかに動き出すことに違和感を抱くほどであったが、慣れてしまえばこの設定は悪くなく、鈍感な部分から普通の反応が得られる部分への移行も穏やかなので、扱いやすいと思った。

ATの変速はスムーズではあったが、低速ギアでは変速していることを少しだけ感じさせる設定になっていた。何かの記事に「プジョーはシフトショックをあえて感じさせるようなセッティングを注文して、アイシンAWを困らせた」と書かれていたが、これがその記事の内容を示したものなのだと認識できた。日産もFUGAで変速比を(Z33やV35と比べて)ワイドにして、シフトショックをわざわざ感じさせる設定にしたというが、そのほうが楽しいと思う運転手が多いのかもしれない。ただ、私だったらそんな設定にはしないだろう。

SportというスイッチはATとダンパーの切り替えにそれぞれ存在する。ATのスイッチをSportにすると、だいたいギアが1段低くなり、高いエンジン回転を保つ設定になった。脚はノーマル状態では9段階に減衰力が自動調節されるというが、Sportにしたときにどういう状態になるのか(ハード固定なのか、ノーマルより減衰力が高いほうへシフトするのか)体感はできなかった。

Topギアは高く、100km/h時のエンジン回転は約2000rpmであった。ATがノーマル状態のときはエンジンをあまり回さない設定になっており、70〜80km/hぐらいで巡航しているときにはスロットルを開いてもなかなかダウンシフトしない設定であった。短時間の試乗であったので詳しいことは分からなかったが、だいたい60km/hで5速に入り、6速にはいつの間にか入っていた。Tipシフトでギアを落としてみると、意外にショックが大きかったが、これも前述のとおりあらかじめ仕組まれたものなのかもしれない。

上り坂で2速のフルスロットル加速を試してみると、エンジンはさほどトルクフルとは感じられなかったが、Dレンジにしてスロットルを少し戻して自動変速で走ると、6段ATが適切なギアを選んで気持ちの良い加速感を得ることができた。アイシン6段ATによって大人しかったPSAの3.0Lエンジン(シトロエンC5も同じ)の印象が一変したのである。クルマというものは、つくづく部品の組み合わせが重要なのだと感じた。

乗り心地は柔らかいが、50〜60km/hで凸凹路を走ると路面からの突き上げが体に伝わってきて、上品さをやや欠いていると思った。406のようなふわりとした心地良いソフトさが消滅したのは残念である。状態の良い路面での高速走行では特に問題はなく、安定感もあった。

ブレーキはかなり大きいローター(330φ)がついており、2ピストンキャリパと大面積パッドのおかげで利き味は良かった。右ハンドル車でも相変わらずブレーキブースターは左側に付いているが、それによる曖昧さ(力を伝達する棒の捩れによるダイレクト感の欠如)は感じられなかった。

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全般的に観ると、乗りやすくて快い走りを愉しむことができるクルマであった。3.0L V6エンジン、革シート、カーナビゲーションなどが標準装着された車両で430万円(税込)という価格設定は、同クラスのライバルと比べると心惹かれるものがある。

実用面ではカップホルダが前席になかったり、後方視界が悪かったりと、欠点がないわけではない。伊達を気取る上でこのあたりをどう捉えるか、思案のしどころである。

2.2Lモデルも試してみたいと思っていたが、試乗車がなかったため、実現はもう少し先になりそうである。

SW

Sport 2.2

4AT

400万円(税抜)

3.0と2.2を比べると、脚(ダンパー)の設定が異なるため乗り味が違う(2.2のほうが良い)という話を聞いた。ディーラーから2.2の試乗車が入ったという連絡を受けたので、その話を確かめるべく店を訪れた。

試乗車はSaloonではなくSWであった。

SWは車体が重くなるので、乗り心地には有利に働くだろうと思って街乗りをしてみると、否定的な意見を述べる要素がまったくないことが分かった。Saloon 3.0の乗り味はとうに忘れていたが、上には「上品さを欠いている」と述べているので、2.2の乗り心地は3.0よりも良い可能性が高い。

ゆっくりと走る状況では4段ATも滑らかに仕事をこなし、206や307のような違和感はなかった。これはATのメーカーがZFであるということが理由だそうである。

ステアリングは、切ったあとに戻す方向の感触がやや不自然で、3.0のような全領域に渡る滑らかさとは表情を異にした。これは明らかに3.0のほうが良い。

街乗りの後、ちょっと高い速度でも試してみた。

突然のフルスロットルでのクルマの反応は遅く、動きはおっとり穏やかであった。Dレンジでは活発な走りは期待できない。急カーブにやや勢いをつけて飛び込んでみると、ステア操作に対する車体の動きが緩慢で、どこまでいけるのか分からず、ちょっと怖い思いをした。乗り心地が良い原因は柔らかい脚にありそうである。

ATのS(Sport)スイッチをONにして走ってみると、低いギアを選択することによって使用するエンジン回転数が明確に高まり、そのおかげでスロットル操作に対するクルマの反応が機敏になった。山道ではSスイッチを入れておくと楽しく走ることができるかもしれない。ただし、ダンパーの減衰力は調整できないので、コーナーリング時にはフニャっとした脚がやる気を引っ込めてしまう。ちょっと頑張って曲がろうとしたが、怖くなって途中でブレーキをチョンと踏むと、ESPがリアの内側ブレーキを強く掛けてくれたことが感じられた。これはアンダーステアを修正してくれたのだろう。

SW 2.2は乗り心地の良い安楽なクルマであったが、操縦する楽しさを感じることはできなかった。「4」がオヤジ車になってしまっていいのだろうか。

 

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