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FAIRLADY Z

標準車

7段AT

355万円(税抜)

 

2008年12月にフェアレディZがZ34へと全面変更された。

短く広くなったのが外観の変更のポイントであるが、高さは変わっていないため、なんだかずんぐりむっくりになった印象を受けた。フェンダのフレアはかなり大きく、特にリアは大きくタイヤを包み込んで力強く見せたいという意図を感じる。 そういう後輪駆動のクルマをカッコよく見せるための常套手段を使ったはずなのに、力が漲っているように見えないのはなぜだろう。上方の絞り込みが少ないからなのか。

エンジンはV36スカイラインクーペと同じVQ37のバルブトロニック仕様 (VVEL)が搭載され、トランスミッションは待望のJATCO 7段ATが採用された。なお、V36セダンもエンジンとトランスミッションが同時期にVQ37&7段ATに変更された。しかし、モデルチェンジが近いFUGAは 何ら変更を受けなかった。

内装はZ33で評判が良くなかったことから、高級感を増すように手を入れられたという。しかし、これのどこが高級なのだろうか。センターコンソール側の膝が当たる場所に合成皮革のパッドが張ってあるのが目立つ程度で、それ以外はかなり安っぽい。ダッシュボード の材質はソフトパッドだが、表皮のデザインに高級感はないし、3連メーターというのが飛び出していたりするのはとっても格好が悪い。何よりも3連のうちの1つが時計だなんて。。。バカにするのもほどほどにして欲しいものだ。 大事な油圧計はどこに行ったんだ? また、Z33の内装には他の国産車にはないアルミ素材の部品が多用されていて画期的だと思っていたのに、Z34ではその箇所(例えばドアを内から開けるレバー)がプラスチックになった(ピカピカのメッキならまだいいが、アルミ風だなんて…)。こんなにコスト低減が明瞭なのは哀しすぎる。 ホンモノが求められる時代だと思うのだが、それを望む人は少ないのか?

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運転席に乗り込むと、シートのサポート形状はあまり大げさではなく、着座位置をダイヤルで最も低い位置まで下げてみてもあまり低くならなかった。足元は広くて、スポーツカーらしい雰囲気はあまりなかった。シート形状はアコードのように肩をすっぽりと包み込むものではなく、相変わらず肩甲骨を固定するような中途半端なものであった。背もたれの腰の辺りは板が入っているように硬くて違和感があった。BMWのように柔らか過ぎるのも問題だが、クッション性がなさ過ぎるのも問題である。ステアリングホイールの位置は上下にしか動かせない(Z33と同じく前後に動かない)が、適正な運転ポジションは得られた。 ステアリングホイールの形状がいびつなことが気になったが、握ってみると不具合はなかった。

2シーターのFRモデルでは乗員がリアタイヤのすぐ前に座るものが多いが、Z34はホイールベースの中間あたりに座るので、座席の後ろ側には結構なスペースがあった。 空きスペースには荷物置きの台が備わるので、カバンなどはそこに置いておくことができて便利である。また、グローブボックスも一般的な場所に新設され、車検証や説明書が入れられる ようになった(それだけしか入らないが)。

ゆっくり動き出して店から200mぐらい先の信号まで走って止まると、後ろを見なければ「これはスカイラインセダンだ」と言われても分からないぐらいの静かさと良好な視界と穏やかな味付けが感じられた。少し気になったのは、路面の小石を拾ってリアのホイールハウスに当たってパチパチと音がすることであった。 後席がないため遮音性に欠けることと太いタイヤ(幅広くごみを拾う)が原因だろう。ちょっと高級感に乏しい。

試乗コースはあまり速度を高められない交通環境であったため、普通の街乗りとなったが、その感触は良質な乗用車であり、単純な乗り心地はしっかりと硬いものの路面変化には影響されない安定感があり、V36セダンより遥かに良好な乗り味であった。そのしっかり感は例えばポルシェ997を比較に出したくなるほどで、もちろん997には及ばないが、可変ダンパーを持たずにこれだけの乗り味を出せるというのは、なかなかの出来栄えと言える。試乗車のタイヤは18インチなので乗り心地 には有利に働いたのかもしれない。19インチのほうはどうなのだろう。

ステアリングの操舵感は極低速では若干重いかなと感じたが、普通に走っているときには重くもなく軽くもなく、何ら違和感はなかった。しかし、中速カーブを曲がっていくときにはステアリングホイールの安定感が薄く、心許ない気がした(ピタッと決まらない)。車両そのものの安定感は全然問題ないので、ステアリング全体(パワーアシストを含む)の味付けが気になっただけ ということができる。シートのサポートがアコードのように良ければ、フィーリングはまた変わってくるのかもしれない。

ステアフィーリングの不安からハードコーナーリングを試すことはできなかったが、Z34にはあまり似合わないのでいいだろう。タイヤ限界の遥か手前のコーナーリングではローリングをほとんど感じることなく曲がり、姿勢変化の少なさと適度にクイックな動きに好感を抱いた。乗り心地と運動性のバランスは高い。

ブレーキキャリパはシングルピストンの浮動式であり、見栄えはしないが、通常の使い方では問題はない(当たり前だ)。ただ、ブレーキパッドは温度依存性が高いようで、頻繁にブレーキングするようになると急に制動力が高まるのを感じた。Z34でもブレーキの仕様は2種類あり、タイプSとタイプSTに は曙ブレーキの対向4ピストンキャリパが備わる。それはどんなフィーリングだろう。Z33では浮動式でも固定式(brembo)でも同じようなフィーリングだったので、Z34でも変わりがないのかもしれないが、一度確かめてみたい ものだ。

7段ATは音の変化とごく軽いショックで変速していることを感じる仕上げになっていた。レクサスの8段ATはタコメーターを見ていなければ変速が分からないが、この辺は味付けの違いがあるのだろう。ロックアップ制御を積極的に入れているというので、変速ショックが出るのかもしれない。トップギア100km/hでエンジンがどれぐらい回るのか確かめてみたかったのだが、今回の試乗コースでそれは不可能であった。ギア比を資料で確かめてみると、各ギア間の変速比は5段ATとさほど変わらないことが分かった。試しに1速で3500rpmまで回すと30km/hぐらいしか出なかった。こんなギア比だったら全開加速で駆動輪が空転し続けるのではなかろうか(電子制御がなかったら)。 具体的には1速が低すぎて、1-2-3-4-5が離れ過ぎていて、5-6-7が近すぎる。ギア比を決めた人はいったい何を考えていたのだろう。

試乗中はほとんどDレンジに入れたままだったのでエンジン回転数は低く維持され、室内はとても静かな状態を保っていた。ちょっとスロットルを大きめに開いて自動シフトダウンが起こってエンジン回転が高まっても、エンジン音はあまり高まらず静かに加速した。あまりに静かすぎるためスポーツカーらしくないと言える。フルスロットルにして エンジン回転が上限(自動シフトポイント)まで高まれば、エンジンの存在感を少し示したが、それでも後方から排気音がガフォーと聞えてくるだけで、吸気音やエンジンの機械音は聞こえてこなかった。スポーツカーなのだから、前からも後ろからも音を聞かせて欲しい。BMWのように吸気音を聞かせる演出があると良いだろう。

タイヤ銘柄は18インチはADVAN Sportであった。これはアウトバーンの高速走行に合わせたようなタイヤだそうで、総合的なバランスが高いという。BSのRE050と同じような成り立ちなのだろう。そういえば19インチはRE050である。この2種類の使い分けにはどういう理由があるのだろう。BSとヨコハマの両方と取引すると安く納入してもらえるのだろうか。なお、試乗後に見たタイヤのトレッド面はとてもきれいで、肩が落ちたりブロックの角が削れたり溶けたゴムが張り付いていたりといった形跡はまったくなかった。試乗客がたくさん来ていたが、だれもハードな走りをしなかったのである。

荷室は浅いがZ33よりも使い勝手は良くなっているようだ。邪魔な補強棒が前方に移動したので、ゴルフバッグが2個収納できるという。床板をめくると、下にはスペアタイヤがあるが、板とタイヤの隙間は大きく、その隙間を板が落ち込まないように発泡材の塊が支えている。これでは空間がもったいない。小物入れを隙間に挟んだらいいと思うのだが 、なぜそうしないのだろう。

Z34は乗り味が良く洗練されていたが、期待していた7段ATはあまり意味のないものに思われた。

SUBARUのATの変速部分はスカイラインなどと同じJATCOの5段変速機である。そのため、レガシィにも7段ATが載るかもしれないと期待していた時期もあったが、富士重は日産と離れてトヨタに近づいたので、もうJATCOとの関係は 断たれるだろう。次期レガシィのトランスミッションはCVTになるという話もあり、7段ATは日産車だけのものになるようだ。13DEC2008

標準車

6段MT

345万円(税抜)

Z34のMTモデルにも乗ってみた。

店から道路に出る際に数cmの歩道の段差を落ちたとき、これはやけに脚が硬いなあというのが初めの印象であった。ATモデルではこんな段差を経験していないので比較できないのだが、これが共通の乗り味なのだろう 。

1速で発進するときのクラッチペダルの操作性は特に何も問題となることはなかった。1.5トンの車両に3.7Lエンジン を積んでいれば充分な余裕があるのも当然である。BMW M3では4.0Lエンジンの余裕を明確に意識したが、Z34では走行条件が異なったためか特別な感銘を受けるようなことはなかった。

ギアチェンジを繰り返して感触を確かめてみようと意気込んで走り出したのだが、クラッチペダルの位置が異様に低いようで、踏み込んだペダルが戻るときに靴底が床に引っ掛かり、スムーズに操作できずに困った。こんなことは初めてで驚いたが、このときに履いていた靴は底の後ろのほうが出っ張っているものであったので、Z34の運転に適合しなかったようだ。そのせいかクラッチワークとシフトワークの連携がうまくいかず、 素性を知ることはできなかった。靴と関係のない話だが、シフトアップでギアを抜くときにギアボックスからガキンガキンと音が出ていた。これはクラッチが実際に切れるポイントと自分が想像したポイントとが異なるためであろう。自分のものにしたらじっくり観察して足を合わしていくしかないのだが、それにしてもシフトフィーリングは重くて引っ掛かりがあって良くなかった

ギア比はレガシィの6段MTよりも全体的にやや高めで、3速3000rpmでは65km/hぐらいになった。そのままリミットまで回ったとすると160km/hほどになる。また、2速では110km/hほどまで伸びる計算になる。

街乗りでズボラをできるかどうか確かめるため5速1500rpmぐらいで走らせてみると、まったく支障はなく、加速まで可能であった。Z33では1500rpmで走るとブルブルとしたエンジン振動を感じてしまったが、Z34では完璧に改良されていた。低回転を許容することが分かったので、もうちょっと頑張ってもらおうと50km/hで6速に入れると、1150rpmとなった。それでもエンジンは文句を言うことなく巡航してくれた。こんなに低回転でうまく回ってくれるのはバルブトロニックのおかげなのだと推測する。微妙な吸気流量を吸気バルブが小さいリフト量でコントロールすれば、流速が高まってきれいに燃えるのだと考えられる。

街乗りではとにかく静かで快適で、エンジンは主張しない。AT仕様と同じ感想になってしまうが、スポーツカーとしては物足りない。フルスロットル加速を3速2500rpmから試してみたが、タコメータの半分ぐらいまでの範囲では穏やかな性格を見せてくれるだけであった。 外観はスポーツカーだが、中身はスカイラインセダンといっても充分に通用する。

シフトダウン時の自動エンジン回転合わせの技術を確かめるために信号待ちで変速してみると、4→3→2でも4→2でもうまく回転数を合わせてくれた。2→1も試してみたところ、ダブルクラッチを踏まなくても何とか(ちょっとだけイヤイヤと言いながら)ズリッと1速に入れることができた。なかなか強力なシンクロナイザを備えているものだ。ただ、この機能に胡坐をかいていてはシンクロを傷める心配があり、個人的にはあまり使いたくない。日頃からダブルクラッチを面倒と思わずにやっている人間からみると、シフト中にクラッチを1回しか踏まない簡易ヒールアンドトーなんて意味がないと思うのである。なぜ中ぶかしを入れるのかという理由は、変速後の回転数変動によるエンジンブレーキを穏やかにすること(日産の意図するもの)と目的とするギアの回転数を同期させておくことの2点がある。後者はシンクロが代わりにやってくれる(ギアの回転数を同期させるためにシンクロがある)ので、面倒な操作をする必要はないという話になるが、古い人間はまだダブルクラッチを踏んでしまうのである。

Z34の6段MT仕様を試してみたものの、ちょっと存在意義がつかみきれなかった。これはMTモデルにしか乗らないという爺さんのためにラインアップされているのかもしれない。また、サーキットを本気で走ろうと思うのならMTのほうがいいだろうが、普通の人ならサーキットで遊ぶにもATのほうが好ましい。Z34のATモデルは乗る人の格好を限定しないが、MTに乗るなら運転用の靴を用意する必要がある。まあそういう不便さも雰囲気を楽しむという考え方に変換できるだろう。Z34になって圧倒的に乗りやすくなったMT仕様は、物好きのドライバーから文句を言われることはないだろう。20DEC2008

Version ST

7段AT

425万円(税抜)

これまでに乗った標準車は乗り心地が良かったので、19インチタイヤ(RE050)を履いたスポーティモデルの乗り心地がいかなるものかを確かめてみた。

Version SとSTのタイヤは、標準車やVersion Tと比較してフロントが20mm、リアが30mmも幅広になる。そしてホイールも1インチ大きくなるため、重量増加はかなりのものになるだろう。カタログで車両重量を比べると、ほとんど装備が同じ標準車とSで20kgの差がある。スペアタイヤの有無 (標準車にあり、Sになし)を考え合わせると、タイヤ&ホイールの重量差は30kgになると考えられる。

まずは店から国道に出ようとすると、小さい段差なのに乗員に伝わる衝撃は強く、脚が硬いことを感じた。そして信号までのわずか50m程度をのろのろ走るだけで標準車とは違う質の味付けが感じられた。

主たる試乗コースは走行速度の低い生活道路であり、路面状態はあまり良くないため凸凹で乗員は揺さぶられることが多かった。それでも路面のざらざらを伝えることはなく、安っぽい乗り味ではなかった。一般の人はこんなに硬いのは困ると思うかもしれないが、こういう類のクルマが好きな人にとってはボディのしっかりした感触とともに好意的に受け入れられるだろう。

国道に戻ってきて短時間だけスロットルを大きく開けてみると、結構な音量でV型エンジンが吼えることが分かった。標準車にはなかった音が聞こえてきたのは、負荷の違いなのだろうか。標準車のときは2速ギアでフルスロットル、今回は高いギア(高い速度)で7〜8割の踏み込みであったため、エンジンの負担が異なったのだろう。 アメリカンな音はなかなか良い演出である。

今回の試乗では強いブレーキを踏む機会はなかったため、対向キャリパのブレーキの印象は何も残っていない。

ツーリングカーとして使うのなら18インチ仕様が良い。25JAN2009

 

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