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250G

6AT

260万円(税抜)

2004年11月、ZEROクラウンをベースに作られたマークUの後継モデルX120系)が発売された。愛称は10代目を機にコロナマーク10という意味でを付けたのだろう。自動車の愛称にXを付けるのは各社とも好きなようで、RX-○、XX、NSX、WRX、CR-Xなど多くの例がある。まあ、愛称が少し変わっても、型式はX110系からX120系に変わっただけで、社内では同じ系列として生きているのである。型式に付くXも愛称をつけるときに参考にしたのではないかと推察される。なお、マークエックスというのは愛称であり車名ではない。車名はトヨタ、そして型式はGRX120(GR系のエンジンを積んだX120)と称し、それで概ね固有のものを指すのである(マークU3兄弟のような兄弟車は同じ型式を有するので、「概ね」とした)。

X120系の車体寸法は従来型と比べて幅が拡大され、長さと高さは縮小された。車内空間はX110系とほとんど変わっていない。

マークXの一番の目玉はとにかく安いことである。クラウンと基本を共有しながらこの価格を設定できるということには驚いてしまう。装備の簡素化や高価な素材を使わないといった様々な原価低減努力は当然なされていると思うが、見た目にはチープな印象はなかった。

もう一つの目玉は、2.5Lモデルの6段ATである。クラウン(M/C前のZERO CROWN)でも3.0Lモデルにしか装備されない6段AT(アイシンのトランスミッションには大トルク用と小トルク用があり、MARK Xの小トルク用ATはクラウンの大トルク用ATより重量が4.3kg軽い)を下のクラスにも採用するというのは、ヒエラルキーを大事にするトヨタにしては英断だっただろう。

上の2点以外には見るべきところはない。

コスト低減が目に見えるところとしては、リアブレーキが熱容量の小さいソリッドディスク(標準仕様)であるのが辛い。1500kgを超える車両重量なのに、そして、重量配分をせっかく前後均等に近づけた(リア荷重が増えた⇒リアブレーキの効きを強くできる⇒全体のストッピングパワーが増す)のに、大切なリアブレーキをないがしろにしている。トヨタは安全性について何を考えているのだろう。クラウンより軽いから大丈夫ということなのだろうか。

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1回目:デビュー時】

まずは乗り込んでシートを一番低く設定すると、最近のトヨタ車に例がないほど着座位置が低くなり、好印象を抱いた。珍しい装備であるクッション長可変機構RECAROのように本当に長くなるのではなく、下の方から別体クッションがせり出してくる)はほとんど意味がないが、座面前端を持ち上げるように設定すれば、膝の裏のサポートを調節することも何とかできる。シートバックの感触は、あまりフィット感が良くない。ステアリングホイールが前後上下に動くのは従来からの美点である。また、助手席でも着座位置を電動で調節できるのは良いことだと思う。今後の日本車は、従来のようなケチ臭い考え(運転席のみ電動)をやめて、これに倣って改めてくれると嬉しい。

ゆっくりと動き出すと、ステアリングの動きがとても滑らかなことに感心した。普通に街乗りで操作する限り、電動アシストであるという意識はまったく持たなくてよくなった。この感触はクラウンよりも良いかもしれない。

6段ATは非常に滑らかで、ゆっくりした走りでは変速ショックを感じることはなく、タコメータを見ていなければ変速が行われていることをほとんど意識しないぐらいであった。クラウンで感じたATからの音(ミューンというノイズ)は、低速の街乗りでは聞こえてこなかった。さすがにトヨタである。

エンジンはやや排気音を聞かせるタイプであったが、不快感は全然なく、直噴特有のカチカチという音も室内には聞こえてこなかった。あまり回さない街乗りでは低回転でトルク感があり、とても快適であった。ただ、直噴であっても燃費は良いわけではなく、やや混雑した街乗りでの燃費(メーター内の情報)は7.5km/Lぐらいであった。

坂道の下りでTipシフトを試してみると、6→5→4→3まではエンジン回転数の変動が少なく、それにより変速ショックも非常に少なく、いつでもためらわずにTipシフトを操作することができた。ただし、3→2へのシフトでは回転数変動が大きく(カタログ上では4→3と3→2のステップ比にはわずかな違いしかないが、3と2のギア比の差は大きいような気がした。それでも変速ショックは少なかった。)2速へのダウンシフトはブレーキで速度を充分に落としてからの方が良いと思った。そして、2速でエンジンが3000rpm以上回っているとミッションからミューンという音が聞こえてきた。新型ミッションとはいえ、やはりクラウンのものと素性は同じなのだろう。

今回の試乗コースは路面状態が悪く、凸凹が多かったのであるが、それを差し引いてもMARK Xの乗り心地はトヨタにしては異端の硬さ(脚がスムーズに動かない)で、とても「フラット」と呼べるものではなかった。走行距離170kmの新車であるからダンパーの動きがまだ渋かったのかもしれないが、215/60R16の「dB EURO」を履いている250Gという普通のグレードでこの乗り味なら、18インチを履いたモデルはどうなってしまうのだろう。私には許容範囲であるが、これまでMARK U(ターボモデルも含む)に乗ってきた一般の人には辛いかもしれない。スポーティが売りであっても、ちょっと行き過ぎていると思う。

50km/h程度の速度からフルスロットルの加速を試してみると、2.5Lにしてはとても素早い加速を見せてくれた。最近のトヨタ直噴エンジンの性能は素晴らしく、これは他社の3.0Lにも負けない速さであろう(0→100km/h加速は8.0秒という)。ATの制御も上手で、定常走行からスロットル開度を徐々に増していくと、それに応じてダウンシフトが次々に起こり、運転手が望む加速を機敏に作り出すことができるようになっていた。6段ATのコントロールの上手さはさすがにトヨタである。

走行距離を伸ばすことで脚の動きが滑らかになるというのならば、このクルマはとても良くできていると感じた。セダン離れが激しい時代であるが、戻ってくる客が増えることだろう。この価格でここまでできていれば、他社にとって脅威かもしれない。

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2回目:2006年1月】

2005年11月にLEXUS IS250に乗ったとき、なんとなくMARK Xと似たような味だと思ったのであるが、両車の試乗のブランクは約1年もあり、本当にISはMARK Xと同じような乗り味だったのか、というのを確認するため、もう一度MARK Xに乗ってみたのである。今回の試乗車は上記のデビュー時に乗ったクルマそのものであり、累積距離計は1万kmを越えていた。

やや混雑した国道をゆっくりと走らせてみると、「あれっ、MAARK Xはこんな乗り味だったかな?」と首を傾げた。シートはフワッと柔らかく体を受け止め、モチッとしたクッション性で全体がルースフィットし、ステアリングは軽いフィーリングなのに少しフリクションがあって大味。。これはまるで先代のMARK Uの味ではないか。

山奥の住宅地に向かうワインディングを走ると、カーブでの頭の入り方もMARK Uのようなフィーリングであり、LEXUS(GS、IS)やZERO CROWNとは違う古めかしい味がした。

路面の凸凹を通り過ぎる際のショックはまろやかに収束し、乗り味はとても穏やかであった。脚が硬いなどということはまったく感じられず、これまたMARK Uのようなフィーリングであった。

デビュー時の印象と比べると、今回は不思議なぐらいに角のないオヤジ車に感じられるようになっていた。現代のトヨタ車が1万kmの走行でこんなに変わるものなのだろうか。

今回は雨天の中を走ったので、リアタイヤをパワーで滑らせたときのフィーリングも確かめてみた。まずは直線道路でギアを1stに固定して発進直後にフルスロットルにすると、ガッガッガッと滑る感触はあったが、駆動力がさほど大きくないため、ホイールスピンを維持することはなかった。次に低速走行時に舵角を付けた状態でパワースライドを試してみると、内輪が空転してリアが少しスライドしたが、大きく滑らせていないので収束は容易であった。今回の狭いコースではコーナーリング中に遠心力や荷重移動によってリアを滑らせることは危険なので試せなかった。

なんだか所期の目的とは異なる結果になってしまったので、別の店で走行距離の少ない試乗車を探してみようと思う。今回は「MARK Xの中にMARK Uが帰ってくる」という経験ができて面白かった。

300G

PREMIUM

6AT

338万円(税抜)

2.5Lと3.0Lを比べてみることにした。

250Gの装備にさほど不足は感じられなかったが、300G プレミアムにはサイド&カーテンエアバッグ、VSC、首振りヘッドランプなどの安全装備が標準でついてくるそれ以外の装備はどうでもいいものばかりで、用途の分からない天井のイルミネーションもついてくる。流行語のプレミアムを名乗っているが、こんなものでプレミアムなのだろうか。本来の意味をイメージできず、直訳しか分からないが、そのとおり「余計にいろいろとつけたモデル」であることに間違いはない。

試乗車は革シート(税抜き18.5万円のオプション)を装備していた。

走らせてみると、250Gと何ら変わりはなかった。エンジンとデフのギア比以外には構造的に何も変わらないので当然である。

今回乗ったコースが前回(250G)よりも速度域が高かったためか分からないが、ステアリングに伝わってくる情報が薄いような気がした。なんとなくクラウンを思い出してしまうフィーリングだったのである。

1速からのフル加速および2速からのフル加速を試みたが、250Gとの差(500cc分の余裕)はほとんど実感できなかった。

2.5Lと3.0Lのエンジン単体の価格差を求めるため、ほぼ同じ装備の「300G」と「250G L package」を比べてみると、だいたい20万円と計算されたが、3.0Lエンジンに価格に見合った価値はないと思う。また、250G以外のグレードは装備の割りに価格が高すぎるので、選ぶ気にならない。

250Gにサイドエアバッグ(6万円)とESP(VSC:6万円)をつけておけば十分である。

300G

PREMIUM

S package

6AT

366万円(税抜)

マークXのスポーティ版であるSパッケージを試してみた。

Sパッケージは 2.5L、3.0Lそれぞれに設定があるが、今回乗ったクルマは300Gプレミアムをベースにしたモデルである。Sパッケージはベース車に対して18inchタイヤ&ホイール(通常差額8.1万円、強化ブレーキ含む)、F&Rスポイラー(通常差額4.2万円)、可変ダンパー、ペダル表面アルミ貼付、サイドシル金属飾り、薄スモーク後部ガラス、シート表皮変更という追加メニューを与えた車両である。Sパッケージの装備品の代金は28万円であるが、上に並べた多くのつまらない装備に対してあまりにも高価である。本当に必要なものは強化ブレーキだけである。

300Gとの基本的な差異はタイヤサイズだけなので、乗り心地が悪化していないかどうかが今回のチェックポイントである。タイヤ銘柄は乗り心地を重視していると思われる「DUNLOP VEURO」であり、それが貢献したのかどうか分からないが、なかなかに滑らかな乗り味であった。Sパッケージのサスペンション設定(バネレートやダンパー減衰力)が標準車とどれぐらい違うのか数字で示したものを見たことがないので何とも言えないが、実はあまり変わらないのかもしれない。試しに可変ダンパーを「SPORT」にして乗ってみると、突き上げが強くなったのが明確に感じられ、「NORMAL」との違いを誰にでも分かってもらえる設定になっていた。ダンパーの減衰力を変更することで乗り味が変わるということは、ダンパーがいちおう働いている(雑誌にはダンパーを動かし難い設計と書いてあったが…)ということなのだろう。なお、AUTOでは9段階に自動調整する(細かくコントロールされる)というので、従来のTEMSからAVSという名称に変更したと思われる。トヨタなら、iをつけてTEMSiとしそうなものであるが…。

通常の街乗りではとても静かに走り、V6特有の変な音を出すこともなかった。そして変速もスムーズで、かなり快適な移動をすることができるのは、さすがにトヨタ車であると感心した。

このクルマでも2速からのフルスロットル加速を試してみたが、高回転までエンジンが回ると、雑多な音が聞こえてしまい、低回転でのマナーの良さが消えてしまうのが残念であった。データ上は0→100km/h加速が7.3秒となかなかの俊足を誇るが、BMW330iほどの力強さ(実際にマークXより速い6.6秒である)は感じられなかった。

ATの変速制御はノーマル設定のほかにSPORTとSNOWを選ぶことができる。ノーマルでは追い越し加速でスロットルを開いていくときに、かなり深くペダルを踏み込んでもダウンシフトを我慢する設定になっている(2.5Lモデルは3.0Lモデルと比べてあまり我慢しない)が、SPORTでは少し踏み込んだだけで敏感にダウンシフトして高い回転数でエンジンを使おうとする。この差は明らかで、誰にでも違いが分かる設定になっていた。

雑誌テストのように高速で走る機会があれば標準車との違いが分かるのかもしれないが、短時間の街乗り試乗では Sパッケージは外観がスポーティなだけの存在であり、特に変わった性能が備わるとは感じられなかった。基本的に脚が違うだけなので、もし250Gでタイヤの性能に不満を持つようになったら、17inch(225/50)に変更し、ダンパーを社外品に変更すれば事足りるというところだろうか。やはり結論としては250Gが一番良い。

 

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