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2005年5月

2.0 XG

4AT

210万円(税抜)

【1回目】

スズキは新型SWIFTを出してからクルマの作りを変えてきている。単に安いだけではなく、ある程度の見栄えがないと日本人の客に目を向けてもらえないということに気付いたのだろう。

エスクードは、ジムニーの兄貴分の洒落た外観を持つオフロード車として1988年に発売された。近年はクルマで走ることが可能な未舗装路がほとんど存在しなくなった(http://www.auto-g.jp/cnt/rindo_map/index.html)ことから、外観だけがオフロード車のように見える乗用車(X-TRAILなど)が次々にと投入されてきた。それらが売れていることから、三代目エスクードは垢抜けたスマートな出で立ちで登場した。もちろんオフロード性能を犠牲にしてまで流行を追うようなことはしていないはずである(そう望みたい)。スペアタイヤを背負っていることがその一端を示している(デパーチャーアングル確保のため)。スペアタイヤのカバーを開けてみると、中身は2.0XEの標準サイズ(225/70R16 with 黄色塗装の鉄ホイール)が入っていた。

運転席に乗り込んでみると、雰囲気は普通の乗用車であった。2.0Lの上級グレード「XG」にはMDやCDのプレイヤーが標準装備され、SWIFTに似たすっきりとしたインパネはなかなか好感が持てる。駆動方式の切り替えは従来の2H、4H、4Lではなく、4H、4H-LOCK、4L-LOCKというフルタイム四駆の形態になり、それらは電気スイッチで簡単に切り替えられるようになった。これもスマートで良い。

普通の舗装路でゆっくりと走らせてみると、目線の高い普通の乗用車のフィーリングであったが、突起やうねりのある路面を通過すると、硬い当たりの突き上げやフワフワした揺れが感じられ、脚の設定はオフロードを意識したものである(オンロード向きではない)ような気がした。それでもカーブをやや高めの速度で通過したぐらいでは不安を覚えることはなかった。その際、ステアリングインフォメーションは得られないことには問題がある。

ブレーキはペダルタッチが曖昧でパッドの食いつきは非常に弱く、強く踏むとペダルがグーっと奥に入っていき、制動感は良くなかった。新車であったので、ローターとパッドの当たりが十分についていなかったのかもしれない。

エンジンは電子制御スロットルがついているが、この設定がなんとも不思議なものであった。発進して2速に上がった直後にグッとスロットルペダルを踏み込んでみても、ペダルストロークに対する加速反応がほとんどなく、さらに踏み込むと1速にキックダウンしてびっくりするという具合であった。エンジンに力があるのかないのか、どうもよく分からなかったのである。速度の低い街乗りで試乗であったので、こういうことしか述べられないが、広い範囲で速度が変化する場所で走ったなら、もっと違う感想を抱くことになったかもしれない。

せっかくなので駆動方式の切り替えも試してみた。4Hから4L-LOCKに切り替えてみたのであるが、30km/h以下の低速走行では明確な違い(低いギアで走っているぞというイメージ)は感じられなかった。HとLの間には1.97という大きな変速比があるのに、トランスミッションが自動変速(Dレンジで走行)であったことから、違いを感じにくかったのかもしれない(MTならば違いが分かりやすい)。4L-LOCKでは前後輪が直結(センターデフロック)になるというが、その状態でステアリングを大きく切り込んでも、走りに抵抗感が増えたりすること(タイトコーナーブレーキング現象)はなかった。何の問題もなく普通に走ることができるのに、4L-LOCKでは警報がピーピーと鳴るのは耳障りだった。なぜ4L-LOCKで走り続けると警報が出る理由は分からない(駆動系にストレスがかかるのでスイッチを戻し忘れないように、という意味か?)。一般人の使い方では、よほどのことがない限り4Hで動けなくなることは考えにくい(センターデフにLSDも付いている)ので、オーナーになった人のほとんどは4L-LOCKどころか4H-LOCKすら使うことはないだろう。

新型エスクードは外観が都会的に洗練されたものなったが、オンロード指向のフォレスター(ターボ、D型)のようなすっきりした乗り味は感じられず、やはり本質はオフロードカーなのだという感じがした。ブレーキの構成もフロントがディスクであるのは当然だが、リアはなんとドラムなのである前後重量配分が均等に近いとカタログに謳いながら、リアブレーキを軽視している(X-TRAILは全車に四輪通気式ディスク、フォレスターはSG5-D型以降のモデルに四輪ディスクブレーキを備える)ということは、ハイスピードでのオンロードドライブを考えていない証である。それとも、価格を安くするために犠牲になった部分なのだろうか。210万円(税抜)という価格は競合車を強く意識したものである。ライバルと少し方向性が異なる新型エスクード、アメリカ人のために作ったクルマは果たして日本で売れるだろうか。

 

【2回目】

上記のとおり1回目はかなりの低速試乗になったため、店を替えて新たなコースで乗り直してみた。

前回も感じていたことであるが、運転ポジションが決まらなかった。ステアリングホイールがやたらに遠いのである。シートバックを立ててやれば済む話ではあるが、座面と背面への適切な体重分布を考えると、ややシートバックを寝かせて(110度ぐらい)運転したくなるのである。ステアリングホイールが前後に動く機構(テレスコピック)が付いていれば、腕の長短にかかわらず適当なポジションを得ることができると思うのである。ほとんどの欧州車には備わるものが、どうして日本車には付かないのだろう。日本人の体格は、欧米人よりもバラツキが小さい(同じ背丈なら同じ腕の長さである)というのだろうか。また、リアシートのクッションの作りがうまくなかった。安全ベルトを装着した位置て座ると、体の中心から見て車両中心側よりもドア側のクッション(座面および背面)が厚くなっており、座ったときのバランスが悪かった。荷物置場代わりの2ドアクーペのリアシートならいざ知らず、十分な居住空間が確保できる箱でありながら、リアシートに乗員を満足に座らせることができないことに呆れてしまった。

発進加速はスロットルの操作に対して穏やかで、コントロール性が良好であった。1速ギアはかなり低く、2速のギア比はその半分程度(52.8%)になるため、変速時のつながり方はやや不自然ながら、平地ではまあ悪くない感触で速度を高めることが可能であった。しかし、3名乗車で急な上り坂を走ってみると本質を露呈した。自動変速で維持される2速ではギア比が高すぎて加速がままならず(2500rpm付近)、スロットルペダルを1/3ほど踏み込むと1速にダウンして急な音の変化と駆動力の変化(ショック)が出て不快な気分になった。やはり1-2のギア比は離れすぎているのは良くない。ケチなことをしないで2.7Lエンジン用の5段ATを全車に装備すべきである。

加速中の騒音は、エンジンの音が中心であり、タイヤや駆動系の音は聞こえてこなかった。ガサガサとしたエンジン音をもっと遮断できれば、乗り味に高級感が出るかもしれない。

オートエアコンのファン風量は温度設定によって細かく調節され、確認できた範囲では9段階に切り替わった。設定温度に達するまでは力強く、そして希望の温度になれば静かに仕事をしてくれるので、なかなか上質なものだと感じられた。

直線道路を走っている限り、脚は硬いとも柔らかいとも思うことはなかったが、ブレーキを踏むと過大なノーズダイブが起こり、柔らかいことを感じることになった。また、ブルブルした振動を感じたのは、重いタイヤをうまくコントロールできていないせいなのだろう。

ブレーキタッチはやはり剛性感が不足しており、奥まで踏み込んでも制動力の高まりに不満があった。

フルスロットルでの加速を試してみると、2速で100km/hを少し超え、3速に自動シフトアップした。加速感は穏やかで悪くないが、エンジン音はガサガサと騒がしく、褒められるものではなかった。

100km/hでのエンジン回転数は2600rpm(TOPギア)であり、巡航時は静かであった。定常走行においてATのロックアップは60km/hではすでに作動していることが確認でき、加速のためにやや多めにスロットルを開くとロックを解除してトルコンのトルク増幅作用およびエンジン回転上昇(トルクを出しやすい回転域を使う)によって速度を高めることができた。もちろん穏やかな加速時にはロックを解除することはない。速度を下げていくと、ロックを自動解除するが、そのポイントは47〜48km/h付近であった。加速中にロックアップが入る速度は負荷によって変わることから、明確に述べることはできない。

ATのSPORTモードをONにしてみると、低速時の変速マナーが大きく変化した。具体的には、20km/h程度で2速に入っているときにペダルを1/5程度踏んでみると、唐突に1速にシフトダウンしてエンジン回転がグワッと上がり、急に加速して驚いてしまった。それ以上の速度では変な感じを受けなかったが、あまり敏感に変速比の離れたギアへ変速するのは好ましくない。もし、5段ATが付いていたなら、1と2をもっと近づけることが可能になるので、こんなにびっくりすることはなくなると思う。

どうしても2.0Lエンジンに組み合わせるATは4段変速に限られてしまうという前提で考えてみると、エスクードは幸いにも副変速機を持っているので、これの変速比を現在の1.970から2.4ぐらいに替えて、ATの1速をもっと高く(2.826から2.4ぐらいに)してやるといい。そうすれば、4段変速のつながりはスムーズになり、万一悪路で4L-Lockを使うときには十分に低いギア比を実現できるのである。通常(4H)の1速発進時の加速は鈍くなるが、1速を長めに引っ張るようなシフトプログラムにすれば問題はないだろう。

V6の2.7Lモデルは近いうちに出ると思うので、試乗車があれば5段ATとエンジンの感触を確かめてみたい。

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現状では荒野を走る機会を持つ人にしかエスクードは薦められない。整地された道の上でしか走らない人は、エスクード側から見て対象外だと思うのである。極悪路に行くことがない人は、X-TRAILやフォレスターを選ぶほうがメリットを多く享受できると思う。スキー場への移動手段が主目的でこの手のスタイルのクルマを買おうと思うのなら、FFのX-TRAILで十分である。湖畔や海岸の砂地に入ることがあるのなら、4WDを選ぶほうがいい。

 

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