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HYBRID

MX

1.3 CVT

2005年にモデルチェンジした8代目シビックにも先代フェリオと同様にハイブリッドシステムを搭載したモデルが設定された。基本的なシステムは先代と変わらない内容であり、蓄電池をリアシート背後に搭載して、Fitのエンジンをベースにモーターの補助を追加したものである。

先代との違いは主にモーターとエンジンの出力アップであるが、その目的は80kgの重量増をカバーするためであると思われる。10・15モード燃費は先代の29.5km/Lに対して28.5km/Lとなり、カタログ上では悪くなってしまった(廉価版のMXBでは31km/Lとなり、一応面目は保っている)。

燃費を良くするために施した改良としては、減速時に吸排気バルブを止めてエンジンブレーキを効きにくくし、モーター(回生ブレーキ)によるエネルギー回収をより多くしようとする試みがある。これは実用燃費を稼ぐのに役立つだろう。しかし、ホンダはあまり燃費の良さをアピールしようとしていない。1.3LエンジンはFit用より10馬力アップしたオットーサイクル(一般的なエンジン)であり、プリウスのようなミラーサイクル(燃費がいいがパワーが出ない)ではないところにホンダらしさがあって面白い。

HYBRIDであることを示すものは、空気の流れを妨げにくいようなデザインのホイール、小さいリヤスポイラ、そして屋根の上のアンテナがある。ノーマル車のアンテナはガラスにプリントされていて空気抵抗がないのに、どうしてHYBRIDには空気抵抗を増やすような手法を取ったのだろう。素人には理解できない。

車体形状がセダンタイプであるため、蓄電池の置き場所はリアシート裏(トランク内)になり、トランク容量はベースモデルに対してかなり狭くなっている。幅の広さは変わらないが、奥行きは15cmほど短縮され、75cmぐらいしかないので、ゴルフバッグなら2セットしか積めないような気がする。

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乗り込んでみると、新型の特徴である2段メーターが目を引く(左の写真はHYBRIDではない)。試みとしては面白いが、見やすいのだろうか。ステアリングホイールは上下と前後に動かすことができ、また、上縁を大きい曲率にしてあり、メーターを隠さないようにセッティングできるように配慮されている。

エンジン始動は普通のクルマと同じように行い、ATのセレクタをDレンジに入れて動かすのも普通である。モーターを使って走るということに対してクルマからのメッセージがほとんどなく、タコメータの隣にあるASSIST/CHARGEと電池残量のメーターだけがハイブリッドであることを示している。

走り出しても普通のエンジンのクルマのようであり、1.3Lであることを知らなければ、CVTを搭載した1.7Lのシビックなのかなと思ってしまうだろう(この時点で1.8Lのシビックには乗っていなかったので、他車の走りを思い出しながら1.7Lと書いた)。1.3Lであることを知っていれば、Fitのエンジンのあまりの非力なことと比べてしまうので、このシビックは何か別のものが後押ししているのだなと想像できる。セレクタにはD、S、Lのレンジがあり、Dレンジではスロットルペダルを大きく踏み込んでもエンジン回転をあまり上げないで走り、Sレンジにすればやや高めの回転を選び、Lレンジではさらに高い回転を使うという普通のCVTモデルと同じような作りになっていた。パワーステアリングは若干重めの手ごたえがあり、電動アシストであることがまったく気にならず、普通の感触であった。

加速には特に違和感はなかったが、減速時には特徴があった。スロットルを閉じただけのときにはほとんど何も起こらないのであるが、ブレーキに足を乗せると(ランプを点灯させると)急に充電をしたがり、CHARGE表示がグイッと増大しながら減速力が大きく発生する。速度が下がっていくに従い、CHARGE表示が小さくなって回生ブレーキが弱まり、ペダル踏力を増す必要があった。回生ブレーキはハイブリッド車の燃費の良さを作る要なので、使わざるを得ないのであるが、ペダル踏力とうまくシンクロした制御にはできないのだろうか。今回の試乗では高い速度域からの穏やかな減速は不可能で、ブレーキランプ点灯と同時に強力な減速Gが掛かるのは気分的に良くなかった。

スロットルOFFで減速中にセレクタをDからSに動かすとCVTが変速してエンジン回転が高まり、エンジンブレーキを掛けることができる。しかし、この時は回生ブレーキが作動しないので、せっかくの走行エネルギーをエンジンの抵抗にして捨ててしまう。これはもったいないことなので、減速が必要な時には、違和感を承知の上でブレーキペダルに足を軽く乗せることが大事である。

「回生ブレーキが強力だから」というのが理由だと思うが、HYBRIDのリアブレーキはなんとドラムになる。コスト面か重量面か分からないが、細かい仕事をするものである。素人ならノーマル車と同じブレーキを使えば全車共通で安くなるのにと考えるのだが、どうやらそうではないらしい。

燃費を良くするためにアイドリングストップ機構が付く。エンジン水温が適正な状態でDレンジでブレーキを踏んで停車すると、エンジンは停止する。時には速度がゼロになる前にエンジンが止まる。そして、ブレーキペダルから足を離すとエンジンが始動してクリープが発生する。しかし、上り坂で停止したときには注意が必要である。ブレーキをリリースした瞬間、エンジンが掛かるまでの僅かな時間にクルマが後退してしまうのである。このような場合は、駐車ブレーキを併用して下がらないようにすればいいのであるが、もしかすると、先にスロットルペダルに足を乗せればエンジンが始動してくれるかもしれない。これを実行するには左足ブレーキが必要であるのだが。。。

前席の座り心地はなかなか良好であった。横方向のサポートは形状が大きすぎてほとんど期待できないが、硬めのクッションはインテグラiSと同類のものであり、最近のホンダは良いものを作るようになったと感心した。走行中は不整路面で一度だけガツンというショックを受けて驚いたが、総じて乗り心地は良好であった。

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雑誌でも取り上げられることが多いが、やはりハイブリッドということになるとプリウスと比べたくなってしまう。記憶の範囲で以下の通り述べておく。なお、ここで出てくるプリウスは2代目のマイナーチェンジ前のモデルである。

加速:プリウスのほうが圧倒的に力強い。モーターのアシストが強力に感じられ、電気自動車のような特異な味がある。エンジンは効率を重視したミラーサイクルなので1.5Lなのにパワー感は弱く、高回転まで回すと音が良くないので嫌になる。シビックはモーターの存在をできるだけ隠して、ガソリンエンジンとCVTのクルマであることを主張する。フルスロットルで高回転まで回しても不快感はないが、ハイブリッドらしい新鮮な驚きもない。

減速:プリウスはブレーキペダルによる減速が自然なフィーリングで良い。セレクタ(CVTの変速)によるエンジンブレーキはほとんど体感できないが、エンジン抵抗によるエネルギーロスを抑えるためにあえてそうしているのかもしれない。シビックはブレーキペダルに足を乗せるだけで回生ブレーキを強力に掛けるため、ごく弱い減速から始めることができない。エンジンブレーキはSレンジ、Lレンジを使って強力に作動させられるが、エネルギー回収ができないのでもったいない。

エンジンストップ:プリウスは蓄電池の残量が多ければたびたびエンジンが止まる。DレンジであろうがPレンジであろうが関係ない。エンジンが止まっていてもDレンジならモーターでクリープが発生しているので、上り坂でも後退する心配が少ない。シビックは低速時にモーターだけで走ることもあるというが、その経験はできず、エンジンが止まるのは信号待ちの時だけであった。エンジン停止時にモーターによるクリープは発生しないのは不便である。Dレンジで駐車ブレーキを掛けて停車している(ブレーキペダルから足を離している)ときやPレンジではエンジンが止まらないため、無駄に燃料を食う。シビックの手法はアイドリングストップで燃費を稼ごうとするガソリン車と同じだと考えればいい。

計器類の視認性:プリウスは中心よりやや右寄りの高い位置にメーターがあるため意外に見やすい。エンジン回転数は分からないが、それよりもエネルギーの流れが見えるモニターは面白くて実用的である。シビックの2段メーターは視線移動が大きくて両方を見るのは疲れる。エンジン回転計を主に見ることになり、速度計はあまり目に入らない。

乗り心地:プリウスはボディのしっかり感が薄く、ステアリングは手応えがまったくなく、全体に頼りない。シートの座り心地は悪くない。シビックは走り味にしっかり感があり、安心して乗ることができる。シートの座り心地は優れている。

荷室:プリウスはハッチバックボディを採用することで蓄電池の存在があまり邪魔にならない荷室形状を作り上げた。床面が少し高いと思うが、荷物が入らなくて困る場面は少ないだろう。プリウスにワゴンボディがあれば市場はさらに拡大するだろう。シビックは荷物を見せずに収納できるメリットを有するが、蓄電池の置場に工夫がなく使い勝手が悪い。

総評:プリウスは初代の欠点をすべて洗い出し、走り、燃費、使い勝手を見直してハイブリッド専用モデルとして大きく進化した。とても完成度が高く、トヨタらしいやり方で時代を先取りして多くの客の心を掴んだ。ハイブリッドという言葉を一般に広く知らしめた功績は大きい。シビックは少しの改良を施しただけで先代と大きく変わっていない。ホンダはF1とバンだけじゃなくて環境のことも考えているよ、というメッセージを示すのみであり、あまり力が入れられていない。プリウスがメジャーになり、ハイブリッドという技術が受容されやすくなった今、アンチプリウス派(スタイリングが気に入らない、セダンじゃないとクルマじゃない)の人がシビックにも目を向けてくれるだろう。

1.8GL

5AT

1.3Lエンジン+モーターのHYBRIDと1.8Lエンジンの走りがどう違うのか確かめてみた。

HYBRID MXと比べると、外観はホイールのサイズとデザインが異なる程度で、、室内の意匠もバッテリ関連のメーターが備わらないぐらいの些細な差でしかなかった。

店から道路に出ようとして僅かにスロットルペダルを踏むと、突然グワッと飛び出しそうになって慌てて左足でブレーキペダルを踏みつけた。この電制スロットルはかなり敏感な特性を有しており、心してかからねばならないと思いながら街乗りに出た。

信号待ちからの発進では、右足に神経を集中して気を緩めずにスロットルをゆっくりと踏めば穏やかに加速することができ、走り出せばこのクラスで初めてと思われる5段ATがスムーズに変速をこなし、普通に街を流すことができた。しかし、信号待ちの多い都会では、このような子供騙しのスロットル特性では疲れてしまう。

山道走行を想定してATを2速固定で3000〜4000pmぐらい回しておき、スロットル特性を確かめてみると、スロットルOFFからちょっと爪先を乗せただけでエンジンはバンッと反応し、「OFF」と「ちょっとON」の微妙な調整が極めて困難であることが分かった。発進時はクルマが揺れないので微妙な操作は何とかなるが、走行中、特にコーナーを攻めているときには体が大きく揺れるの微調整がしにくいのである。実態はスロットルを大きく開いてもそれほどの加速はしないので、踏み始めから1/4ぐらいまでの範囲をもっと鈍感にしてコントロール幅を広く持たせるべきである。さもないと、山道のコーナーリング中にスロットルON-OFFで姿勢を調節することがうまくできないと思う。

Dレンジで発進直後にフルスロットルを試してみると、エンジンはなかなか歯切れが良く、宣伝文句のとおり2.0L級の走りを体に感じさせてくれた。速度の乗りがなかなか良く、気持ちの良い特性にホンダらしさを見た。この速さを生み出しているのはエンジンだけではなく、5段変速になったATに依るところも大きいだろう。このATはアップシフトもダウンシフトもスムーズで良い仕上がりであった。ひとつ問題だと思ったのは、セレクタで選択できるレンジがD、D3、2、1という4つであり、D4が存在しないことである。現状では、高速道路をTOPギア(5速)で走っているとき、ちょっとエンジンブレーキが欲しいと思っても4速に落とすことができないのである。D3に入れていきなり3速に落ちてしまったらショックが大きく、もし路面が濡れていたら姿勢を乱すのではないかと心配になる。

5段変速のATはアコードからの流用かと思ったが、ギア比はまったく異なることから、どうやら別物のようである。1.8Lエンジンも従来のK型ではなく、まったく新しい物のようである。シビックは世界中で売られるクルマなので、新規でいろいろと開発してもいいのかもしれないが、トヨタなら絶対に流用部品を多用するだろう。ホンダは面白い会社である。

全車共通のシートの座り心地は硬めなのだが、脚の動きが良いため、乗り心地は良好であった。

試乗車にはModuloのエアロキット(左の写真の赤枠部分)が組まれていたが、なんとも格好の悪いものであった。ノーマルは格好が悪いが、手を加えてもどうにもならないことが分かった。

最後になったが、HYBRIDと1.8の加速感を比べると、1.8のほうがかなり速いと感じられた。特に速度が高まるほどその印象が強い。区間加速(20→40km/hなど)のタイムを計れば、逆転する場面もあるかもしれないが、心地良い走りを重視すればガソリン車に軍配が上がる。

 

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