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1.3 XG

4AT

1,176,000円(税込)

鈴木自動車の軽自動車をこれまで一度所有したことがある。また、同社の他の軽自動車の助手席に乗ったことがある。それらの経験から「スズキのクルマはコストが掛けられていない」という固定観念を抱くようになった。スズキは小型車の分野でも安価に供給することのみを目的として軽自動車の部品を多用し、単に車体を膨らましただけのクルマが多かったので、これまではイメージがあまり良くなかった。

今回、新型SWIFTには軽自動車とは別の世界戦略を目論んだ車台を使ったというので、どのような出来なのか見てみることにした。

販売店の中に飾られていた展示車は最廉価モデルの1.3 XEであった。これの内装を一目見てガッカリした。質感は最新の軽自動車よりも低く、飾り気のない硬いプラスチックばかりが使われた安っぽい仕上げであり、「やはりスズキの作るクルマはこんなものなのか」と改めて思うことになった。

販売員に試乗をすすめられたので、試乗車である1.3 XGを見たところ、これはインパネにCDラジオがきれいにビルトインされ、オートエアコンが付き、ドア内張りには飾りパネルが付くなど、XEとは見た目の印象が大きく異なった。実際はほんのわずかな違いしかないのに、これならちょっとは色気があるのでいいかなと思ってしまう。ちょっとしたことで客は意識を変えるものである。

最初に多くの人の目に触れるはずの展示車に安物感の強いXE(XGより7万円安いだけ)を選ぶという販売店の考えが理解できなかった。

XGに乗ってみると、なかなか静かで普通に走ってくれた。着座位置の異様な高さ、AT(アイシンAW)の大雑把な変速タイミング、そして電動パワステの操作感に違和感はあったが、価格を考えれば何も言えない。

ライバルにフィット、マーチ、デミオがあるが、それらを上回る商品力があるのかどうか、短時間の試乗ではなんとも言い難い。外観のシャープなデザインと価格の安さで勝負することになるのだろう。

盗難防止装置を全車に標準装備しているというのが売りのようであるが、こんなクルマを盗む人はいないと思う。見当違いも甚だしい。余計なものをつけないで安く作ったほうがいい。変なところにお金をかけず、リアシートの造りにお金をかけるほうがどれほど客のためになるか、スズキは分からないのだろうか。

1.6

4AT

1,617,000円(税込)

雑誌等でなかなか評判の良いスイフトスポーツに短時間ながら乗ることができたので、どの辺りが「スポーツ」なのか確かめてみた。

ノーマルのスイフトと比べて装備の違いは、エンジン、脚、タイヤ&ホイール、ブレーキ、シート、マフラーなど多岐に渡る。それでも上記の1.3Lモデルより50kg重い(1.5Lモデルよりは40kg重い)だけであり、ライトウェイトといえる。

運転席に座ってみると、とても感触が良かった。着座位置はやや高めながら、最も低い位置に調節しておくとノーマルのような違和感はなく、ダッシュボードやステアリングホイールとの位置関係は文句のない仕上がりであった。シートそのものの出来も良く、レカロのようにサイドサポートに金属フレームが組み込まれているのが明らかに分かるものになり、窮屈さを感じずに横方向のサポートが充分に確保できる形状を備えたものになっていた。クッションの形状や硬さについても、とても具合が良かった。

ゆっくりと田舎道を走ってみると、このクルマの独特の乗り味を感じた。脚は適度に硬くて路面からの突き上げを感じ、少しポンポンと跳ねてしまうが、不快だと思わないギリギリの線で抑えられていた。跳ね方に特徴があって言葉では説明しにくいが、移動のために乗る通常の乗用車として考えた場合には、一般の人にとってこれぐらいが限度かなと思う絶妙のセッティングといえる。

ステアリングはやや重めにセットされ、電動パワステであることを全く意識することがなく、操舵に対する車両の反応は穏やかに設定されていた。ATやスロットルペダルの反応も同様に穏やかで、2500〜3000rpm程度まで回して乗る日常走行では普通の乗用車に乗っている感覚を抱いた。

一般の交通に組み込まれて走った限り、特に「スポーツ」を意識することはなかった。ところが、ひとたび自由に走らせてみると………

ちょっと高めの(3速が主体になり、2速の領域に入ることはめったにない)速度域での話になってしまうが、田舎の中速カーブが続く道を走らせると、これがかなりスポーツ心を目覚めさせてくれる味を持っていたのである。

スロットルを大きく開けると、エンジンは心地良い機械音と排気音と共に回転を上げ、ATは切れ味よく変速する。ブレーキはタッチがしっかりしており、短いストロークでカッチリと利く。とても清々しく、生気あふれる振る舞いに対して、気を良くしてのめりこんでしまうのであった。

エンジン性能は1.6Lとして特にすごいわけではなく、6800rpmで92kW(125PS)を出すに過ぎない。また、ATはDレンジならフルスロットルでも6200〜6300rpmで自動変速するので、エンジンの最高出力が出るところまで使わない。しかし、このエンジンの面白いところはフラットアウトのときではないのである。ワインディングロードをパーシャルスロットルで調節しながら走るとき、そのレスポンスの鋭さとvividな感触に運転手の気持ちは高揚するのであった。

ステアリング特性は穏やかだと上で書いたが、中速コーナーを駆け抜けるときの感触がとても自然でリニアで頼りになる良質な手ごたえだったのである。切れば切ったなりに感覚どおりに曲がるというのは信頼がおけるので、非日常の速度域でのカーブにおいて安心してドライビングを楽しめるのであった。

中速コーナーでの脚の感触はとても洗練されていた。安定した姿勢を保ちながら路面の変化を上手にトレースし、乗り心地の硬さを完全に忘れさせてくれる素晴らしい動きを見せてくれた。この上質な乗り味を得ることができるのなら、日常のやや硬い脚も充分に納得し、許容できる。

ブレーキの硬質なタッチと鋭いレスポンスは私の好みに合っており、そのうえ、制動力そのものも満足のいくものであった。高速域からのフルブレーキングではFFゆえに前輪を中心とした制動になってしまうのであるが、前後のブレーキバランスがとても良く、減速Gの出し方に感心した。また、ABSが介入する前後で減速Gの変化が小さく、つまり、ABS作動時の空走感がなく、緊急時に安心してABS作動領域まで踏力を高めることができるブレーキに対して「これは購入動機になる」と思ってしまうほどであった。

スイフトスポーツは、運転手の感性に対して「スポーツ」を訴えることがとても上手なクルマであった。速さという絶対性能を追求せず、人間の感覚に働きかけるという領域にスズキが踏み込んでいく時代になったのかと感慨に浸ってしまう。

1.6

5MT

1,564,500円(税込)

ATモデルの乗り味はとても好印象で、ドライバーの手が届く範囲で無理をせずに走りを楽しむことができる良いクルマであると感じていた。

今回、MTモデルが試乗車として出ていたので、街乗りをしてみた。

このクルマも最近の例に漏れずクラッチペダルを踏んでおかなければスタータが回らない仕掛けが付いている。いつものようにキーをスタート位置まで回しておいてからクラッチペダルを踏み込んでいくと、7割ぐらいのストロークで始動することができた。クラッチペダルはとても軽い。 それは良いことであるが、問題がないわけではなかった。クラッチペダルの操作を伝える棒(支点と踏面の間をつなぐロッド)の長さが短いような感触で、ペダル面が描く弧の半径が小さく、軽トラのように上から押さえつけるような操作を要求された。 スイフトは着座位置が床面よりかなり高いので、こういう設定にしてあるのだろう。まあ慣れれば問題はないかもしれない。

発進時には1000rpmぐらいでクラッチミートするのは何となく力が足りず、1500rpm程度まで回してやることで不安のないスタートを切ることができた。1.6Lにしては華奢な 低速特性だと感じたが、クルマの反応に慣れてしまえばもっと低い回転数でミートすることもできるだろう。

では、ちょっとしたカーブがある坂道で元気に走らせてみよう。

1速で2000rpmからおもむろにフルスロットルにしてみると、直線的に力が湧きあがり、痛快な加速感を示してくれた。6800rpmまで回して即座に2速に入れてフルスロットルにしても小気味良いフィーリングを維持していた。カーブでの身のこなしは車名のとおりクイックで軽く、NAエンジンのライトウェイト カーを操る楽しさに溢れていた。スロットルペダル操作に敏感に反応するvividな感じは、やはりATモデルを凌ぐ。

2速がメインとなる小さいカーブの連続でステアリングを多めに切る場面で気になることがあった。それはステアリングホイールの下部のプラスチックカバーである。回している間にその部分に触れてしまうと、革の部分との触感の違いが顕著で、違和感を抱いてしまうのであった。メタル調というデザインの遊びは良いのであるが、ちょっとやり過ぎである。 スポーク部分で留めておいて欲しかった。

坂道を離れて一般道でギアチェンジのフィーリングを確かめてみた。

各ギアを2000rpmちょいまでしか引っ張らずにポンポンとアップシフトしてみると、シフト操作もクラッチ操作も共に軽くて緩さがあまりなく、素早い変速をしてもエンジンが揺れたりすることはなかった。変速操作を楽しめるクルマと言えるので、AT限定免許でないのなら、MTを選んで欲しい。

5速 50km/hでのエンジン回転は1600rpmであり、そこからスロットルを開けると加速をこなす柔軟性を備えていた。この数字から分かるように一般的なクルマよりギア比が低いので 、乗るにはある程度の割り切りは必要である。もしも願いがかなうのなら、6段変速にして高速道路用のギア比が欲しい。

乗り心地は硬めであったが、フラット感が高くて突き上げはなく、かなり快適性の高い上質な乗り味であった。高速道路を使った長距離移動はエンジン回転が高まるので騒音や燃費に問題があるかもしれないが、スポーティドライビングのために買うのなら、満足度はとても高いと思う。

 

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