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1.6

2 tronic

229万円(税込)

日本での発売から2ヶ月が経過したが、街中ではまだ目にしたことのない1007。ちょっと面白そうなので乗ってみることにした。

ハッチバックタイプの乗用車の後席乗降用にスライドドアを採用する例は多くなった(ラウム、シエンタ、モビリオなど)が、前後席共用で電動スライドドアを1枚のみ設定したモデルはトヨタポルテが最初である。ただし、それは助手席側のみであり、両側ともに電動スライドドアという斬新なスタイルを提案したのは1007が初めてである。トヨタもプジョーもなかなか面白い試みをするものであるが、車体が左右対称である1007のほうが左右のアンバランスを考慮しなくてもいいという点で比較的単純に作ることができただろう。

ポルテは運転席にサッと乗り込むには従来のドアが優れているという理由でスライドドアにしなかったというが、1007の運転席に乗る場合はどうだろう。やはり開けるのも閉めるのも電動では遅いと感じてしまうのは確かである。それでも、苦痛に思うほどではなかった。リモコンキーを使えば少し離れた場所から開けられるので、待ち時間が気にならず、便利に使えるかもしれない。

前席に座ってみると、エスティマのようにウィンドースクリーンの前端が遠くにあり、コンパクトカーと思えないぐらいに広々した印象を抱いた。

後席への乗降性を確かめてみると、これは並みの2ドア車と同様に体を折り曲げて乗り降りせねばならず、苦痛を伴うものであった。ポルテの助手席側スライドドアは、助手席に人が座っていても後席に入り込むことが可能なぐらいに開口部が広かったが、ポルテよりも全長およびホイールベースがそれぞれ260mmおよび285mmも小さい1007では同じようにはいかない。

後席のスペースは2名乗車に最小限のもので、閉じ込められた印象があり、あまり乗りたいと思えない空間であった。ポルテの開放的な明るさとはまるで異質のものである。

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運転席のポジション調整はさすがに欧州車らしく幅広い体格の人に対応できるよう設定され、ステアリングホイールはチルト&テレスコピックが可能で、シートリフターも備わる。シート位置は最下位では低すぎたので、少し上げて運転することにした。

トランスミッションはMTベースで自動クラッチ&自動変速を備えた2トロニックという名称のものであった。これはシトロエンC2やC3のセンソドライブと名前違いの同じものであろう。この手のトランスミッションを持つモデルに特有の欠点である坂道発進は、1007も同様に苦手である。後退防止装置は付かないので、運転手のスキルが必要になる。サイドブレーキは低い位置にあるため坂道発進で使うのは困難で、左足ブレーキを使うことになろう。なお、1007には普通のトルコン式ATを搭載したモデルはない。

シフトレバーを押してギア表示が「1」になったのを確認してスロットルペダルをゆっくり踏み込むと1500rpmまでエンジン回転を上げてからクラッチを繋いでいき、完全にミートするポイントは1100rpmぐらいに設定されていた。一旦回転数を高めてから半クラッチを行いながらどんどん回転を落としていくというのはなんとも不思議なものであった。今回は穏やかな発進しかしなかったので、このようなクラッチミートが感じられたが、急発進をしようとした場合は高い回転数でクラッチを繋ぎにいくのかもしれない。

2トロニックはAUTOのスイッチを入れておくと自動変速を行ってくれるうえに運転手の任意変速操作も一時的に受け付けてくれる。初期のアルファ147のように手動操作をするとAUTOが解除されるという不便なことにはならない(後期147は1007と同様に手動シフト操作をしてもAUTO設定を勝手に解除することはない)。セレスピード、センソトロニックなどこの手の機構は加速中にスロットルペダルを踏んだままにしておくとアップシフト時に変な減速感が出てしまうのが難点で、2トロニックも同様であった。短時間の試乗では、AUTOで自動変速するタイミングが分からず、滑らかに加速していくのは難しかった。AT限定免許を持ち、自動変速に固執する(手動操作なんて面倒と思う)人は、日常使用の中で変速タイミングを体で覚えてスロットルの微妙な操作をマ スターすることになろう。AUTOを解除して運転手が任意でレバーを操作して変速する場合は、一瞬スロットルを閉じてやるとアップシフトがスムーズに進むことが体感できた。ただ、クルマ側の変速のタイミングには個性があるので、スムーズに走らせるにはある程度の慣れが必要である。

1007はスロットルペダル面が小さく、隔壁に近い位置にあるため、靴の先が隔壁に当たってスロットルを開けられないことが度々あった。シート位置をもっと後ろにして運転するといいのかもしれないが、上から押さえ込むように踏むスロットル操作にも慣れが必要であると感じた。

発進後、早めに2速に入れてからフルスロットルの加速特性を試してみた。エンジン特性は全域に渡ってフラットな感触で、6000rpmまでの範囲で特に盛り上がるような回転域はなかった。面白味はないが、この類の実用車では悪くない設定である。1240kgのボディを1.6Lの普通のエンジンが引っ張るので、加速が良くないのは間違いないが、日常走行でフルスロットルが必要になることはあまり多くないだろう。1.4Lであれば、高速道路で頻繁にフルスロットル加速を求められるかもしれないが。。。

街乗りで2トロニックをAUTOにしておくと、2100rpm程度まで回してアップシフトを繰り返す走行が可能であり、低回転でのトルクを生かして走ることができた。ただ、4速では2100rpm一定で待っていても5速になかなかアップしなかったので、手動でアップシフトすると受け入れてくれた。AUTOでの変速を待ちきれない場合は手動で操作することも考慮するといい。

乗り心地はとてもしっかりとしており、全長がわずか3730mm、ホイールベースがわずか2315mmというスペックが信じられないぐらいの落ち着きがあった。背の高いボディゆえに上屋のフラフラ感が出るかと予想していたが、それは杞憂に終わった。1630mmという全高はGOLFより100mmほど高いだけなので大したことはないが、それにしても安定した乗り味はクラスレスと言ってもいいぐらいの驚きに満ちていた。

ステアフィールにもコンパクトカーらしからぬ落ち着きがあり、適度な重さのステアリングホイールを安心して回すことができた。また、舵角と進路のシンクロ具合もとても気持ち良く、カーブが苦にならない、いや積極的に楽しもうと思えるものであった。

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1007は外見に似合わず運転フィーリングがとても重厚で安定したものであり、欧州のクルマらしい面を見せてくれた。やはり欧州では「走ってなんぼ」というのがクルマの価値なのである。これなら長距離の移動も苦にならないだろう(前席ならば)。

ポルテは店頭で展示車を見ただけであるが、短距離移動を主体とする日本で使うに当たっては、フラットフロアでウォークスルー自在の天井の高い広々とした室内空間というのは、なかなか便利そうでいいなあとも思ってしまう。日本では1日かけて数百kmのドライブをするという機会はめったにないので、クルマの本質を重視するよりも、移動できる部屋としての便利さを優先するのも理解できる。長距離移動が楽にできるクルマが別にあるという前提でセカンドカーを考えるのなら、1007よりポルテのほうがいいかもしれない。

1007は、若い女性に人気があった206に代わるものとして、クルマ本来の出来の良し悪しとは別に、洒落た街乗り用サンダルとして再び流行するのではないだろうか。女性がマイカーとして1007を持っていると魅力的だと思う。そして、2007年に日本で発売される207は、車台を共有すると思われる1007よりも走り味がさらに良くなっているはずなので、これは別の意味で楽しみである。

後日乗ってみたポルテの試乗記はこちら

 

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