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120

6AT

革シート仕様

外装デザインは5シリーズやZ4に似た新しい流れのものである。先代5シリーズ(E39)からBMWの特徴になったイカリング型スモールランプも備わる。

内装はZ4と似たテイストである。エアコンはもはやCセグメントでも左右独立温度調整が当然のようになり、1シリーズにも採用された。

現状ではトップモデル(120i)でもシート調整は手動式である。前後スライドはBMWの常で極めて細かく調整できるため、重くなる電動にする必要は感じられない。また、着座位置はかなり低く設定でき、ステアリングホイールも前後上下に調整できるので、様々な人に最適なポジションを提供できるだろう。リアシートに座ってみると足元に余裕はあまりないが、頭上空間は充分であった。大人が4人で乗ることに何ら問題のない室内空間といえよう。シート表皮が革の場合とファブリックの場合で座り心地が大きく異なるので、好みに合うかどうか両方をチェックするほうがよい。

荷室の広さは車体の大きさに応じたもので、使いやすそうな形状である。

動かしてみると、まずはステアリングホイールの異様な重さ(特に低速時)に驚いた。これはかなりのもので、インプレッサ(GC8-C)よりも重い。最近は軽いパワステが多いので、この設定は異端であると思うが、パワーアシストがないステアリング(重ステ)を知る人にとっては「パーキングスピードでもステアリングが回る(アシストが効いているのは明確に分かる)ので、これでもいいかな」と思ってしまうことだろう。おそらく、後発の118iや116iのステアリングはもっと軽く設定されるのだと予想される。ちょっと気になったのは、メルセデスと同じように切ったステアリングが自動的に復元する力が非常に弱いことである。ダブルジョイントの部分のフリクションが大きいのだろうか。このサスペンション設計は性能が良くてもフィーリングが良くない。また、低速度、低G走行では、パワーアシストが弱いのに路面の状態が全然手に伝わってこないのは奇妙である。

シート位置を最下位から10mmほど高くして公道に出てみた。このクルマはフロントガラスの上下幅が狭いため、開放感はあまりない。また、車幅は1750mmとあまり広いわけではないが、見切りが悪いため、狭いところにスッと入っていくのはちょっと難しかった。小さいクルマなのに実用車としてはポイントが低い。

Cセグメントにおいても6段ATが採用される時代がとうとう来た。Audi A3が先鞭をつけ、BMWも追従する形である。120iのAT(ZF製か?)はAudi/VW(アイシンAW)に負けないぐらいスムーズで、レスポンスも悪くなかった。通常は「D」レンジで2速発進を行い、「Ds」レンジでは1速発進となるように感じられたが、Audi/VWと異なり、DやDsで走行中のギアポジションは表示されないので確かなことは不明である。Tipシフトはあまり使う機会がない機能であるが、Topギアの守備範囲を知るために速度を上げながらアップシフトの命令を出し続けてみた(BMWでは、Dレンジで自動選択されるギアよりも高いギアへTipシフトでアップシフトできることが多い)。すると、約60km/hでTopギアを保持することができた。そのままスロットルOFFで速度を下げると40km/h強で5速に自動ダウンシフトした。いろいろと操作をしてみたが、結局のところDかDsで事足りるのである。Dであっても自動ダウンシフトは頻繁に行われるので、日本車のように高いギアでもたついたあげく、キックダウンで必要以上に加速するということもない。

走行中の車内はとても静かで感心した。6段ATのおかげでエンジン回転を高めないで走れるというのも一つの理由であるが、エンジン音や排気音が従来モデル(3Compact)に比べて小さくなっているようにも思える。フルスロットルで6000rpm付近まで回しても静かなのだから。

乗り心地はとても滑らかで、角のある突き上げは感じられなかった。硬いランフラットタイヤを履いていることがまったく気にならない。ボディがしっかりしているということを特に感じ取ることはできなかったが、3シリーズ(E46)で感じられたのと同じように全体的にバランスがいい乗り味だと思った。街乗りではE46と同じく何も楽しいことはないが、いざ限界域に近づくと「なんという気持ちの良い動きをするのだろう」と感心させられるのではないかと想像する

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雑誌等でクラス唯一のFRであることを前面にした記事を見ることが多いが、書いていて恥ずかしくないのかと思う。いまどきの小型車でFRは珍しいので、それをタネにするというのも分からないわけではないが、あまりに浅知恵と言わざるを得ない。突き詰めればFRのほうがFFよりも運動性についてはメリットが大きいと考えられるが、いったい一般ドライバーのどれぐらいの割合の人がその利点を体感できるだろう(BMWの動きの良さを感じるにはかなり追い込んでいかなければならないので、それを感じ取れる人はBMW使用者の1%に満たないと思う)。「BMWは頑ななポリシーがあるんだね」という程度で十分である。ジャーナリストなら1シリーズが次期3シリーズとシャシを共有する使命を負わされているということを容易に想像することができるだろうから、取材をしてそういう記事を書いてみることもできよう。次期3シリーズのサスペンションは、アームのピボット位置を1シリーズより広げるかもしれないが、前後ともほとんど1シリーズと共用するはずであるし、エンジン&トランスミッションはクラスが違えど同じ物をオーバーラップさせて使うのは従来どおりの手法である。トランスミッションが6段になったのは、次期3シリーズ用6段ATを先に1シリーズに載せたらプレミアム度が上がる(Audi A3が6段を先に採用したので、いまさら5段はない)と考えて実行に移したのだと想像できる。ブランドの価値を高めることと、高いプライスタグを付けることをうまく成立させている。

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ライバルであるGOLF(V) GTと比べると、室内の広さ、視界の広さ、車体の大きさの把握のしやすさはGOLFのほうが良く、乗り心地は120iのほうが良い。コンパクトなファミリーカーとして使うならGOLF、パーソナルユースが多いなら1シリーズがいいだろう。

118

6AT

標準仕様

116iと118iが試乗車として出ていたので、120iと基本的に同じ構造の2.0Lエンジンを搭載する118iにちょっとだけ乗ってみた。

120iとの価格差は41万円(税込)にもなるが、何が違うのだろう。調べてみると、エンジンパワーに関係する部分では共鳴過給吸気システム、快適装備では自動防眩ルーム・ミラー、ソフト・オン/ソフト・オフ機能付ルーム・ライト、ライト・パッケージの有無、室内ではインテリア・トリムがシルバー(118i)かチタンマット(120i)の違いという程度である。装備の差に比べて価格差が大きいような気がする。

ドイツでの価格差(対120i)は30万円程度であるが、118iにはリア窓にパワーウィンドーが付かなかったり、バンパー下部やドアハンドルが黒いままであったり、日本仕様とは大いに違いがあり、なかなか比べにくい。

118iのエンジン特性は120iよりも低回転向きになっており、普通にDレンジに入れて街乗りをする範囲においては、6段ATはスムーズに変速してくれるし、ステアリングの重さは120iほど手強くなく、なかなか扱いやすいと思った。乗り心地も良く、普通に流すだけなら特に不満を漏らすことはない。GOLF5を思い出してみると、GOLF GTのほうがエンジン/トランスミッションに繊細な味があったような気がした。

Dsレンジに入れてフルスロットルを与えると、エンジンは6000rpmを超えてもきれいに吹け上がり、なかなかスムーズな特性に感心した。その時の音は、意外にも従前のBMWを思い出させる豪放なもので、120iの試乗時に感じたジェントルな印象とは異なった。いつしか1erには大きい音のほうが似合うという考えに変わってしまったのかもしれない。118iは排気音を主体としたエンジン音を聞きながら回転数が高まっていく過程を楽しむことはできるが、物理的な加速力を楽しむことはできない。カーブを真剣に走ることはなかったので分からないが、おそらくBMWらしい正確なハンドリングも備えていると想像できるので、エンジンパワーを必要としない山道の下りで走りを楽しむことはできるだろう。

120iと比べて明らかに走りが劣るのかどうか、それは半年以上のブランクがあるので明言できないが、0→100km/hが0.9秒も遅いので、同日に乗り比べれば分かるはずである。では、118iの魅力とは何だろう。同じようなエンジンの120iより安いことぐらいしか思いつかない。それでもGOLF GTより30万円も高いので、BMWブランド(走り味にとことんこだわる執念)が好きな人にのみ勧められる。

 

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