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TIIDA

15M

CVT

150万円(税別)

【1回目】

一般家庭から見放され、営業車でしか使われなくなったサニーの後継モデルとして、日産から久しぶりに新型車が発売された(2004年9月)。

一見メガーヌの兄弟車かと思わせるデザインであるが、実はマーチ(から派生したキューブ・キュービック)のプラットフォームをベースにしたものらしい。また、3BOX(セダン)も10月下旬に出るという。

日産はこのところ高級、上質を謳うクルマを色々と出してきたが、どれも自己満足に終始し、客の立場ではそのような主張が全然感じられなかった(特にTEANAはひどかった)。TIIDAも高級で上質なコンパクトカーという売り文句を提げて出てきたので、どのようなものか見てみることにした。

外観に特筆するものはないが、タイヤは185/65R15というなかなかいいサイズが選択されている。径が大きく、幅が必要以上に太くないので、グリップ性能と走行抵抗軽減のバランスが良いと思われる。

室内はパッと見た感じではどこが上質なのか分かりにくい。ところが、いろいろな場所に触れてみると、なかなか良いと感じられる部分があった。まずはアームレストの触感の柔らかさである。だいたいこのクラスではクッション材をアームレストに入れようと考えられていないものである。シート表皮はファブリックとカブロン(合成皮革)のコンビネーション(15M)になっており、合皮の部分にステッチをわざと目立つように入れてあるのも上手な演出である。逆に言えば、ステッチを見せたいがために合皮(15M)や皮革(15G)をシート地に選んだとも思える。ただし、室内からドアを開くレバーがマーチ/キューブと共通部品で、さらにエアコンのスイッチ類もマーチ/キューブと共通部品(カーナビ装着時はウィングロードと共通のダイヤル式)であるのがいただけない。また、ダッシュパネルの表皮が全体に柔らかい材質であれば良いのだが、部分的(衝突時に膝が当たるかもしれない箇所)に硬いプラスチックがそのまま使われているのは興ざめしてしまった。

運転席位置調節はスライド、リクライニングに加えてシート全体を上下に移動することもできる。助手席も含めて位置調節のレバーはどういう訳かセンター側(左右のシートの間)に存在し、ちょっと目障りである。シート間のスペースには通信機器を設置したり12V電圧を取り出す設備が存在するだけであり、使用頻度の高い場所ではないため、それでいいと考えたのだろうか。ドア側にも余裕はあるので、なぜ通常の位置(ドアを閉めたら車内から死角になる場所)に設置しなかったのか疑問である。まあ、その分ドアを開けたときに外からはすっきりしているように見えるが、それにどれほどの意味があるのか分からない。

リアシートは全体が前後にスライドできる。最も後ろに下げた場合はかなり足元に余裕が生まれ、くつろぐことが可能である。最も前に移動した場合は乗員にとって最小限のスペースになるが、一時的に荷物が多いときに有用だろう。背もたれはリクライニングが可能で、それも細かく10段階に調節できるのが良い。トヨタでは2段階(通常位置+倒した位置)にしか変化できないという愚かな機能をもつ車種が多いが、TIIDAはよく考えられている。通常位置から後傾する側へ倒すことができる最大角が大きすぎる(安全面で不安あり)のが難点ではある(現状の半分まで倒れればいい)が、垂直方向へ立てることができるというのが素晴らしい。なぜなら、それによって荷室の有効利用ができるからである。

荷室は普通の大きさで、床面の板を外すと、スペアタイヤが丸出しになる。タイヤと床板の間にはかなり大きいスペースがあるので、そこに小物入れ(濡れた物や工具を入れるのに便利なトレーが付いているクルマが多い)が欲しいところである。しかし、そのようなトレーはオプションにも存在しないという。あまりに不親切である。ハッチバックタイプでは当たり前の機能であるリアシートの折りたたみは可能である。しかし、背もたれを前に倒しても荷室がフラットにならないのは不便かもしれない。リアシート全体が荷室の床の上をスライドする設計になっているため、座面と背もたれを足した厚みがそのまま床の上に積まれてしまうのである。「フラットな荷室」よりも「リアシートがスライドすること」を優先したのである。前述の「床下トレー」がオプションにできないのなら、荷室の床の上に置く箱(倒したシートと高さを同じにしてフラットな床を作り出せるもの)をオプション装備に含めてもらいたい。

エンジンを始動すると、その静かさに驚かされた。無負荷で3000rpmぐらい回しても室内にほとんど音が侵入してこないのである。なぜだろうと思ってボンネットを開けてみると、エンジンそのものが静かであることが判った。それに、エンジンだけでなく冷却ファン(電動)の音も非常に静かであり、これは特筆に値する。エンジンの音に関しては本当に上質だと思える部分である。

新しく設計されたこのエンジン、実は意外に手のかかった作り方がなされているのである。シリンダーをボーリングする際にダミーヘッドを載せるというのはレースなどの特殊なチューニングカーのエンジンに使われる技である。これによってシリンダー径の精度が高まり、製造時に用意するピストンはなんと1種類だけでよくなった(普通は数種の直径の製品をシリンダーに合わせて組む)という。そのうえ余計な摺動抵抗を減らすことができる(=エンジンが静かになって燃費も良くなる)。点火プラグにも特徴があり、中心/接地電極ともに尖っており、着火を良くしようとしている。そしてプラグのねじ部が長く、ヘッドにはプラグ周辺に冷却水路を設けているため、燃焼室の冷却性が良くなり(=異常燃焼が起こりにくい)、結果的に圧縮比を高める(=効率が高まる)ことができたという。レギュラーガソリン仕様で圧縮比が10.5というのはなかなかのものである。

試乗に出かけるに当たって運転姿勢を調整していると、気になることが出てきた。まずは足踏み式駐車ブレーキである。手で引っ張るレバー式よりも場所を有効に使えるという利点はあるものの、狭い足元に余計なペダルがあると操作の邪魔になり、左足ブレーキングができないのである(トヨタ車はリリースした際のペダル位置が高いので邪魔にならない)。右足でブレーキペダルを踏む人には関係ない話であるが…。なお、駐車ブレーキがカチカチいわないというのは高級感を出すためなのだろうか。次はシートベルトの差込金具(バックル)の位置の異様な高さである。センターアームレストを使っている(下げている)ときにも容易に金具を差し込めるように高い位置にバックルを設定してあるようなのであるが、安全を考えるのならもっと深い(低い)位置(座面と同じ程度の高さ)に設置すべきである。いざというときに腰を拘束してもらえるのか心配になってしまう。よく観察すると、このバックルはシートに固定されているのではなく、床に固定されているため、シート位置を上下させたときに乗員との位置関係が一定にならないのである。バックルをシート(本体またはレール)に留められなかった理由は、リクライニング用レバーが内側にあって干渉するためなのかもしれない。つまらないことにこだわった設計ミスである。

ゆっくりと走らせてみると、CVTのマナーがとても良いことに感心した。ミッションが暖まると金属ベルトの存在がほとんど分からず、違和感はなかった。トルクコンバータの利用は発進後わずかな間だけであり、すぐにロックアップクラッチが作動する。なかなか効率の良い走りができると想像できる。ただ、日本人が好きな急発進は残念ながらできない。トルコンの滑りがかなり少ないので、いきなりフルスロットルにしてもジワリとしか進んでくれないのである。Dレンジの変速スケジュールでは低回転で発進し、しばらく進んで3000rpmを越えるあたりから加速に活気が出てくるのである。Lレンジでもそのマナーはほとんど同じであった。D、SPORT、Lのそれぞれの設定で加速の仕方をもっと大きく変化させられるといいのになと思った。

登坂でのCVTの感触はかなり良好で、2500rpmも回せばスイスイと登ってくれた。1.5Lエンジンなのに軽やかに坂を登ることにビックリした。3000rpmも回せば力強く加速し、頼もしいと思ってしまうほどであった。フルスロットルでは、速度が増すに連れてだんだんとエンジン回転数が増していくという変な制御があることを感じた。70〜80%のスロットル開度ならば(エンジン回転と速度が連動しないことを嫌う評論家が多いので)そういう制御もいいが、全開の時には持てる力をフルに出すようなセッティングにしてもらいたいものである。すなわち、一定のエンジン回転数を維持しながら速度に応じてCVTの変速比を動かしていくということである。

TIIDAのCVTにはマニュアル風の変速スイッチ(CVT-M6のようなもの)はついていない。実際の走行でそのようなスイッチをいじるのは最初だけで、そのうち使わなくなるということを日産は学習したのだろう。それでも、変速特性を変更する機能は備わっている。そのひとつは「Lレンジ」である。これは普通のATのLレンジとは異なり、発進から最高速までいつでも使えるCVT独特のもので、変速比の幅を狭くしてエンジンを高回転域だけで使わせるものである。用途としては「急峻路の上り下り」、「とにかくフルにパワーを使いたいとき」が考えられる。もうひとつは「SPORTモード」である。これは「D」と「L」の中間のセッティングであり、やや高めのエンジン回転を使う。用途としては「山道の下りでの安全走行」が考えられる。このように3種類あれば充分である。

エンジンはレギュラーガソリン仕様でありながら排気量1Lあたりのトルクが10kgm(1.5Lで15.1kgm)を達成している。これはなかなか立派なものである。実際の使用でも上記のように低速でのトルク感があり、日常では2500rpm以下で充分に走ってくれるため、静かな走行を楽しむことができる。また、実用燃費が良いということも推測できる。それでは高回転がどうなのか気になるところである。最高出力を発生する6000rpmまでフルスロットルで引っ張ってみようとしたが、残念なことにコースの都合と特異なCVT特性によって5500rpmまでしか回すことができなかった。それによって分かったことは、4000rpm以上は音がうるさくなり、回す意味があまりないということである。新車なのでエンジンが回りたがらなかったのかもしれないが、4400rpmで最大トルクを発生するというスペックのわりに高い回転を好まないような気がした。

乗り心地は、ある程度の速度を出しているときにはとてもフラットな感触で、路面からの突き上げ感が非常に少なく快適であった。

電動アシストのパワーステアリングは低速度で軽く、住宅地の中での走行時には違和感を感じなかった。電動パワステが不得手と思われる素早いロックtoロック(右にいっぱい切ってから即座に左にいっぱい切る)を何度か繰り返したが、アシストの遅れは出なかった。

いろいろと書いてみたが、総じて150万円のクルマとしてはとても良い出来であると思う。上質というのが理解できる部分(特にエンジンが良い)はあるので、販売量は見込めるだろう。ただ、アルミホイールをオプション設定にしたり、荷室の床下収納を省略したり、リアのブレーキがドラム式であったり、リアのホイールハウス内がピッチ塗装のまま剥き出しであったり、コスト削減の努力が目に見えてしまうのが難点である。あと10万円だけ価格を上げて細かい不満点を潰してやれば、かなりレベルの高いクルマになると思う。どうして日本車は最後の詰めが甘いのだろう。(10月3日)

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【2回目】

1回目は住宅街での試乗であり、走行条件が限定されたため、今回は田舎の山道を走ってみることにした。

この田舎道は山奥にある新興住宅地へ通じることから交通量が多く、低速の走行を強いられるのが難点である。それであっても、直線が少なくて何度もステアリングを左右に切り返すことを求められ、マンホールの凸を必ずカーブの途中で踏まなければならないなど、乗り味を試すには都合の良いコースといえる。

店からカーブが連続するところまでの間、TIIDAの静かさに再び感じ入ってしまった。Dレンジでの走行ではCVTが高い変速比を維持してエンジンをあまり回さないようにしているのである。

カーブの連続に入ってステア操作を繰り返すと、パワステの奇妙な感触が気になった。ステアリングを切り込む際に問題はないのであるが、戻していく際にセンター付近でフッと重さが変化し、連続感が途切れるのである。切り返すたびにステアリングセンター付近で違和感を覚えてしまうというのは山道では都合が良くない。電動パワステの設定にはもっと改善の余地があろう。また、操作が軽すぎるため、コーナーリング中に路面の変化で体が揺れたときに、揺れが腕に伝わって僅かな力でステアリングが動いてしまうので、神経を使わされてしまう。

カーブの立ち上がり(上り道)のときにDレンジ(ノーマルおよびスポーツモード)でフルスロットル加速を試してみたが、あまりエンジン回転数を高めないせいかパンチ力には大いに不満を持った。販売マニュアルには「カローラやフィットより中間加速が良い」というデータがあったので、これでも1.5Lの中では良い部類なのだろう。小排気量のクルマには多くを求めてはいけないようである。

帰りの下り道では前車が非常に遅かったためスロットルを全く踏む必要がなく、CVTのレンジ切り替えによってエンジンブレーキがどのように変化するかを確かめることにした。まずはDレンジのまま走ってみたところ、意外にも普通のATと比べてエンジン回転が高く保持され、空走するような状態にはならなかった。次にスポーツモードにした場合は適度なエンジンブレーキが効く設定になり、予想通り山道で使うのに都合が良いものと思われた。ノーマルモードからスポーツモードへ切り替える時のショックは大きくないため、躊躇することはない。Lレンジも試してみたが、これはかなり回転数が高まるため、急カーブの前でセレクトすればフットブレーキを踏む必要がないぐらいに減速することができる。用途は急勾配の下り道ぐらいだろうか。こちらも変速ショックは小さい。

また、一度試しておきたかったのがGの大きい領域での動きであった。具体的には急カーブの手前で急減速して急ハンドルを切るというテストをしたかったのである。実際に強めのブレーキングを初めて試みると、通常走行でそれまで描いていた踏力と減速力の関係のイメージを裏切り、予想以上に急減速してしまった。おそらくブレーキアシストが働いたのだろう。これはなんとも余計なお節介であり、リズムが乱されてしまう。必要以上に減速してしまったため、コーナーリングでの横Gを高めることができなかった。まあそれでも急減速時のノーズダイブは少なく、急ハンドル時の外輪の沈み込みも少ないということは分かった。

路上のマンホールの蓋を踏み越えるときの挙動に不自然な感じはなかった。近ごろ多くのクルマに使われるマルチリンク式リアサスはストロークによりタイヤが色々な方向へ曲がるので違和感を覚えることが多かったが、TIIDAはシンプルなリアサスペンションのおかげで変な挙動を起こすことがなかった。突き上げ感もあまり強くなく、乗り心地とロール剛性のバランスが高いことにも感心した。ただし、着座位置が高すぎて何となしに不安感がある。リフターが備わっているのだから、20mmはイニシャルを下げてもらいたい

実用車としてみると、1.5Lエンジンの動力性能に余裕はないが、街乗り用のクルマとしてはなかなか良い出来であると思う。1.8Lエンジンを搭載するモデルが2005年初旬に出るというので、現行の性能に不満がある向きは待つのもよかろう。1.5L車が12秒ちょっとかかる0→100km/h加速を 1.8L車はを9.9秒でこなすという。(2004年10月9日)

 

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