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ごま豆腐
他愛ない話である。
子供の頃、豆腐のようで豆腐でない食品が夕食に出ることがあった。玉子豆腐やごま豆腐といったものである。
玉子豆腐は茶碗蒸しのような味の豆腐として気に入っていたが、ごま豆腐というのは何とも不味いものだなと思いながら食べていた。
子供の味覚というものが未熟だったのかもしれない。ブラックコーヒーをおいしいと思わないのと同類か。
時が流れて高校1年生のゴールデンウィーク、学校の合宿で高野山を訪れた際、精進料理としてごま豆腐が出た。久しぶりに食べたごま豆腐は、やはり不味かった
。脂肪と蛋白質を摂るためにお坊さんは不味い食事でも我慢するのかと思ったものだ。
さらに10年ほど経って口にしたごま豆腐は、なぜかとてもおいしいと感じるようになっており、「あの不味さはいったいどこに行ってしまったのだろう」と訝しく思うのであった。
食べ慣れた訳でもないのに、突然に大人の味覚に合致するようになったのだろうか。
確認のためにスーパーマーケットで並んでいる製品をいろいろと買ってみたものの、ごま豆腐はどれもこれもおいしくて、何か混じり物が入っているのではないかと疑ってみたが、材料は胡麻と葛であり、味付けの類は入っていなかった。
どうも腑に落ちない。あの不味さはいったい何に由来するものだったのか。
市中で買えないのなら、高野山に行くしかない。
しかし、極度に寒かったこと以外に記憶はなく、泊まった寺の名は不明なのだ。
ともかくどこでもいい。高野山の宿坊に泊まってみることにしよう。
そして夕食を待ったところ、ごま豆腐が出てきた。さて、どんな味だ?
ひと口食べると、昔の記憶が蘇った。そう、この何とも言えない味だ。
長年探し続けてきた不味いごま豆腐に再会できた不思議な感覚。 味覚が未熟だから不味いと感じたのではなかったのだ。 高野山のごま豆腐は大人でも不味いと思う味だったことを確認できたので、長年のもやもやした気持ちはすっきりしたのであった。 でも、なぜ山のごま豆腐は不味いのだろう。それは謎のまま残る。
現在、スーパーマーケットにはいろいろな種類のごま豆腐が並んでいる。 先日「ペロリン」なるごま豆腐がAEONにあったので買ってみた。 面白い名前が購入の決め手だったのだが、よく見ると佐賀の商品であった。「高野山」ブランドではないごま豆腐もあるのだ。 http://www.47club.jp/shop/g/g10004777/ 夕食に出してもらって食べるとびっくり。 「この甘さは何だ???」 気持ち悪くなったが、九州の人はこれをおいしいと思っているのだろう。ネットで検索してみると良い評価が多いのだ。 3時のおやつに食べるのにはいいかもしれないが、夕食に出すのはやめて欲しい。
世の中には変なごま豆腐もあるものだ。
SEP 2011 |