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BOXSTER

986型

2.7

Tiptronic S

(5段AT)

Option 17インチホイール装着車

注: 写真はBoxster S

家には車庫が1台分しかないため、2人乗りのクルマを1台だけ所有する生活はしばらく無理だと思っている。したがって、986を買うつもりで店に行ったのではない。それでも気楽に試乗を受け付けてくれた。試乗の目的は本物と呼ばれるスポーツカーの味を知ること。Boxsterの試乗車は 2.7のAT 右ハンドル車のみが用意されていた。

まずは幌を被せた状態で乗り込んでみた。2人乗りのクルマに男が2人で座ると居住空間はタイトで(当たり前)、このクルマが実用的な乗り物でないことを初めから感じさせられた。

ドライビングポジションを合わせようとすると、ステアリングホイールが前後にしか動かないのがちょっといただけない。ステアリング位置が高いと感じたならシートを上げれば良いという尤もらしい意見もあろうが、低いポジションで運転したいサーキット走行で不自然な格好を強いられるのは辛いと思う。ステアリング位置の調整は一般的なヨーロッパ車と同じように上下、前後ともにできるようにしてもらいたい。日本車の多くは上下調整しかできないが、まだそれのほうがマシである。なぜなら、前後の位置はスペーサーで調整できるから(エアバッグを外せば)。

座面を最下位から1cmほど高く設定して走行開始。ステアリングはパワーアシストが控えめで、前輪荷重が少ないクルマにしては意外な手ごたえを感じた。スロットルペダルもけっこう重く(渋くはない)、オルガン式のペダルの角度が立っているので靴底を合わせにくい(着座位置を高くしたせいで設計と差が出たのか?)。2速発進による加速は、ギア比が高そうに感じさせる動きの鈍さがあり、渋滞の中で使用した2000rpm以下のエンジン音はまろやかであった。交通の流れが悪い道ではこれだけの感想しか持つことができなかった。

幹線道路を外れてちょっと勾配のついた曲がり道で1stギアと2ndギアを使って走ってみた。Tiptronic Sは、シフトレバーがDに入っていてもステアリングホイール上のスイッチによって一時的にギアをUP-DOWNできるので使いやすい(BP/BLレガシィはこの制御方法を採用している)。また、使用中のギアがいつでもメーター内に表示されるのも良い。スロットルを大きく開いてみたところ、1stはギア比が低くてエンジンが予想より回りすぎ、2ndに入れると威勢の良さは影をひそめてしまう。ヨーロッパでは問題のないギア比なのかもしれないが、低速走行中心の日本では1stと2ndのギア比が一般的な5段ATに比べて離れている(ステップ比:1.834)ことから、ちょっと走りにくいと感じた。ステップ比をもう少し小さくして(1stのレシオを高くしても全然問題はない)、通常は1速発進にすると日本で実用的なATになるだろう。

スロットルペダルの動きはスムーズなので、運転手が欲しいだけの出力を容易に得ることができるのは良いものである。また、エンジン回転をちょっと高めると音はなかなか勇ましいものになる。

ステアリングは低速走行をしているときは当然切った分だけ素直に曲がってくれるが、その感触は引っかかりがなくリニアで適切なものであった。フロントタイヤが駆動力の影響を受けないことが(それだけではないと思うが)良いフィーリングを生み出しているのだろう。

前後ともにbrembo 4ピストンキャリパがついた16インチホイール用ブレーキは、効かせるには踏力がかなり必要で、日本車のように踏んだ瞬間に制動力がパッと立ち上がる設定ではない。踏めば踏むほどギューっとローターを締め付けて効いていき、運転手が欲しいだけの制動力を自在に得ることができる。ただ、ABSを働かせるぐらいの制動をしようと思ったら、かなり気合を入れて踏みつける必要があると思うので、慣れるまではしんどいだろう。

次に、交通量があまり多くない道で流れに乗って走ってみた。ATをDレンジに入れたままにしておくと、意外にシフトアップポイントは低回転にあり、あっという間に5th(TOP)ギアに入ってしまう。80km/hではエンジン回転は2000rpmをやや下回る。そのときにはロックアップクラッチは作動しており、緩加速ではロック状態を維持してくれるのがいい。巡航中のエンジン振動は低く、音も静かで快適であった。

信号で停止中に幌を開けてみた。室内のロックを解除して、スイッチを押し続けると窓が開きつつ幌も全開になった。時間は計っていないが、12秒ほどの行程らしいので、気が向いたらいつでもオープンエアードライビングを楽しむことができる。

久しぶりのオープンカーでのドライブは、爽やかな秋風を受けてとても気持ちが良かった(9月28日 5:00pm)。あまりに気持ちがいいのでつい右足に力が入り、ステアリング上のスイッチで1stギアを選んでフルスロットルでエンジンの音を聞いてみた。BOXER6は片側3気筒ずつテールパイプまで独立した排気管を持っているため、レガシィ3.0R(6本のEXパイプは1本に集合する)の音とは異なり、独特のサウンドを奏でる。エンジンは瞬時に吹け上がり、回転リミットに近づくと自動的に2ndギアにシフトアップした。2ndギア以降の加速感は、あまり力強さがなかった。排気量が2.7Lと小さいので致し方ないところである。山道の上りでクラウンに追いまわされるという話も嘘ではなさそうである。

乗り心地はソフトトップを上げていても下げていても変化はない。もちろん幌に車体のねじれを支える剛性はないので、当然の話である。その乗り味にオープンカーと思わせる軟弱なところはなく、インプレッサと同程度のしっかり感があった。悪い路面を走っていないので確かなことは言えないが、フロントスクリーンがグラグラ揺れることがなく、安心してドライブができた。

普通の街乗りの結果、タイヤを触ると発熱は前後均等で、ブレーキローターは前がやや熱くなっていた。走行中のブレーキ鳴きはないが、クリープを止めている状態から少し緩めたときにローターが振動する音が出る。これは昔の日本車で出ることがあったが、最近は聞かなくなった音なので、気になる人がいるかもしれない。制動性能を優先したパッド設定はドイツでは有用だが、日本では200km/hからの制動をする機会がないので、街乗りでは鳴かないパッドに替えてもいいかもしれない。

今回、スポーツカーのお手本とよく呼ばれるポルシェに乗ってみて、得るものは確かにあった。クルマの動きすべてが運転手の操作に対してリニアなのである。アクセルを踏めば踏んだなりに走り、ブレーキを踏めば踏んだなりに減速する。ステアリングも同様である。そんなことは当たり前であるが、それを実現できているクルマは多くないようである。過剰な演出が多い世の中にあって、Boxsterの試乗は「日常で感じられるクルマの出来の良さとは何か」を感じるいいキッカケになった。

 

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