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G

4段AT

Rear drive

142万円(税抜)

2005年10月に発売されたアウトランダー以降、三菱自工の製品の変わりようは顕著で、クルマが好きな人の考えが作品に反映されるのが感じられるようになった。

意欲的な作品の第二弾は、i である。1月の発売からもうすく3ヵ月になるが、これまでの販売台数ランキング(軽自動車)は次のとおりである。

1月 16位、2月 9位、3月 11位

軽自動車といえば安さが第一の売り物なので、i が発売された時、最低価格が122万円という高額商品では販売台数を稼ぐのは難しいと思った。実際、ワゴンRの29098台(3月)という驚異的な数字と比べると7777台(3月)は少ないと感じるが、登録車の台数と見比べると決して少ないものではない。生産が注文に追いついていないという話もあるので、この販売台数は三菱自工にとっては充分に満足できるものなのだろう。それにしてもワゴンRの量はすごい。1日に1000台も作るなんて、工員さんはとても大変だなあと思ってしまう。

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i のラインアップの基本はRRと4WDの2種類で、装備によって3グレードが用意される。試乗車は後輪駆動のG(上級グレード)であった。

雑誌等で i 赤いシートを見て「なんと大胆なことをするものだ」と感じ、これは老母のMOVEの青いシートのインパクトを超えるかもしれないと期待して試乗車のドアを開けた。しかし、内装色はグレーであった。赤を敬遠する人がいることは想像に難くないが、なんだか白黒写真みたいなグレー内装は面白味がなさ過ぎる。少し落ち着いた色味を設定するという洒落っ気は出せなかったのだろうか。

車内にキーが置いてあることを確認して、まずはドアを開けたままでエンジンを始動してみた。すでに桜が咲く温かさになっていたのに、始動直後のエンジン回転数は2500rpmほどに達し、「あれっ、軽トラに乗ってしまったかな」と錯覚しそうな音が聞こえてきた。いくら新設計エンジンと言えども、3気筒エンジンはそれなりの音を発生し、外部にはそれを遮断するような手当てがなされていないので、軽トラのように聞こえても仕方ないのかもしれない。ドアを閉めれば、隔壁の向こうにエンジンがあるんだなという印象になり、荷室の床下から室内を通ってエンジン音が聞こえるという認識に至ることはなかった。i のドアはしっかりとした感触で閉まり、ペラペラな一般的な軽とは明らかに違うものであった。乗車のたびに不安感を抱く必要がないのは良いものである。

シートの位置合わせやミラー調整をしながら暖機の時間を稼いでみたが、なかなか冷却水低温警告灯が消えなかった。i リアエンジン、フロントラジエータであることから、エンジンとラジエータをつなぐホースが長く、その分だけ冷却水の量が多くなり、水温上昇に時間がかかるのだろう。これではチョイ乗りの用途には向かない。近所の用足しのために5分ぐらいの道のりをドライブするオバサマは暖機などするはずもなく、目的地に着いても低水温のままでエンジンは停止される。そんな乗り方を毎日繰り返したら、燃費は悪いしエンジン内部もひどいことになるだろう。軽自動車というのは「雨に濡れないスクーター」という感覚で手軽に使えるべきである。

低水温警告が消えるのを待つことを販売員は特に求めなかったので、ゆっくりと走り始めた。すぐに上り坂になり、グイッと踏みたい衝動に駆られたが、それを抑えながらゆっくりと走ったところ、2500rpmあたりでターボが過給を始める音がした。軽のターボを試すのはカプチーノ以来であるが、最近のエンジンはかなりの低回転でタービンを回し始めるということが分かった。可変バルタイの効果もあるのだろう。

走り始めに気になった軽すぎるステアリングは、しばらく乗っていると違和感を抱かなくなった。しかし、ペダルに脚を合わせると異常なほど遠くなってしまうステアリングホイールを正確に操作するためには、シートバックをかなり立てなければならず、その運転姿勢には馴染むことができなかった。デザインや思想でかなり頑張った i なのに、チルトもテレスコピックも付けないとは、やはり軽自動車という枠を超えられなかったようで残念である。カプチーノには、あのケチなスズキがチルト&テレスコを付けていたのに。。フロント荷重が400kgぐらいならパワステは不要だと思うので、そのコストを位置調整機構に回して欲しい。

低水温警告が消えたのを確認してから、ギアを2速に固定して3000rpmからフルスロットル加速を試してみた。6500rpmまで回してもコンプレッサの過給音は出ず、加速感はとても穏やかであった。900kgという重いボディを加速させるためには、やはり過給の力を借りなければならず、2/3のトルクしか出せないNA(ターボなし)仕様を設定せず、全車ターボ付にしたのは正解かもしれない。ターボが付いているということは過給開始時の音を聞かなければ分からず、走るうえで何ら支障はない。もっと強力なトルクが欲しいとも思うが、日常使用を考えるとセッティングはこれでいい。

乗り心地は軽らしからぬ落ち着きがあり、なかなか良かった。900kgもある車重、15インチタイヤ、そして2.55mというロングホイールベースが有効に働いているのだろう。4段ATの変速ショックは少なく、快適性を損なうことはなかった。

ブレーキを強く踏む機会がなかったので、45:55という重量配分から想像されるノーズダイブのない減速姿勢を知ることはできなかった。ブレーキの構成はフロントのローターが13インチホイール用で、リアはドラムであり、エンジンパワーをフルに使った走りを楽しむと、早期に破綻するのではないかと心配する。車重が900kgもあり、せっかく15インチホイールを履いているのだから、14インチ用ローターをフロントに入れ、リアもディスクブレーキを奢って欲しかった。まあ、冬場は13インチのホイールを履けるので、スタッドレスタイヤ代が安上がりになるメリットもあるが。。

運転席以外から室内を見てみると、後席は座面の短さが気になった。前席との差があまりにも大きく、ヘッドレストが中途半端な高さまでしか上がらないことも含めて、成人男子の乗車を考慮していないかのようであった(160cmぐらいまでなら可)。Fitと同様に燃料タンクが前席の下にあって、同様に後席の足元に傾斜が付き、フットレストのようで足の居心地が良いと思ったのに、ちょっともったいない。座面と背をMOVEと同程度の大きさにするだけで、快適性は格段に高まるだろう。

荷室はエンジンの存在に影響されて床が高く、あまり広くなかった。荷室の床板とエンジンカバーの間に分厚いスポンジが挟み込まれているので、それのかさ上げ分も影響している。後席の背は細かくリクライニングでき、前に倒せば即座にフラットな荷室になるのは良いのであるが、荷室から背を倒そうとするとレバーが遠くて使いにくいと思った。リクライニング用のレバー以外に前倒し用のつまみ等は存在するのだろうか。

チョイ乗りであったため、感想はこれぐらいしか述べられない。

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i三菱の復活のために渾身の力で開発したスペシャルな軽自動車であることは外観と乗り味から感じられたが、これが本当に理想形なのだろうか。

ワゴンR風のスタイリングがスタンダードになった今、何らかの差別化をして市場を開拓しようとする姿勢は素晴らしいと思う。しかし、室内の作り方は広々1.5BOXの形態をとり、ワゴンRスタイルを脱した感じがしない。そして、ホイールベースが特別に長いのに後席はMOVEよりも狭くて窮屈である。スタンダード軽よりも広くできないのなら、もっと背を低くして特別な感じを出す方がいいのではないだろうか。燃料タンクが前席の下にあって床を低くできないことから、現状より50mmぐらいしか車高を下げられないかもしれないが、全高1550mmならもっとスマートになるだろうし、駐車場の選択肢が少し広がるだろう。今後、派生車種を期待したい。

 

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