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ブランド戦略

ブリヂストンタイヤの「POTENZA」は多くの人が知るブランドネームとなった。 それについてちょっと書いてみたいと思う。

【POTENZAブランド】

POTENZAというブランドの誕生は意外に古いようだ(1979年)。私が親しみを覚えるようになったのはRE71が出た頃である。ポルシェの新車に純正採用されたというのが売り文句だったそうだが、大学生だった私たちはそんなことに興味はなく、「速く走れるタイヤ」だと認知していたのである。クルマ好きの友人たちは学生の身分にも関わらず高価格のRE71をこぞって買い、その絶大なグリップ力とハンドリングの確かさに驚き、走りを楽しんだものである。かく言う私もRE71 G tuneを使ってジムカーナ場やサーキットで練習に励んだ。

一方で日本の新車に純正採用されていたタイヤにPOTENZA RE86やRE88というモデルがあった。これらはジムカーナ場で走らせてみるとRE71との差があまりに歴然としており、「こんなのがPOTENZAを名乗ったらダメだろう!」と思ったものだ。つまり、高性能なタイヤこそ「POTENZA」というブランドを掲げるに値し、へなちょこタイヤにPOTENZAを冠するとブランドイメージを傷つけてしまう恐れがあると思っていたのだ。でも、それはRE71を経験した限られた人たちだけの感想なのかもしれない。

【新車装着用POTENZA】

RE86やRE88の次にはRE010、RE030、RE040等の新車純正装着専用タイヤが出てきた。それらの番号はトレッドパタンを示していると思われたが、いったい何者なのかはよく分からず、装着される車両に専用に設定されたタイヤなのだろうというイメージを持っていた。一般の人はどう思っていたのか知らないが、私は新車用POTENZAとリプレイス用POTENZA(RE710など)の間に同じブランドイメージを抱くことはなくなった。

おそらく一般の人は新車にPOTENZAが装着されていても「おっ、ポテンザだ! 嬉しいなあ」という話にはならず、「ブリヂストンが付いてきて(他社製品じゃなくて)良かった」と認識する 程度なのかもしれない。そして交換する機会になってタイヤ屋に行くと、元のタイヤと同じPOTENZAというのが目には留まるが、店員に「あなたのクルマには合わない」なんて言われて、なんだかよく分からないが「ブリヂストンならいいや」と思ってGRIDとかいう 知らないヤツを買うはめになるのだ。

このように適切なリプレイス品をラインアップしていない状況では、一般客の頭の中にPOTENZAブランドのイメージが構築されない。それはブリヂストンにとって良い話ではない。高価格(高利益率)のブランドをもっと浸透させる必要があったのだ。

【新ブランド EXPEDIA】

POTENZAはスポーツ走行を好む一部の特殊な人にとっては横浜ADVANと並ぶ人気ブランドになった。しかし、ドライグリップの強さに喜ぶマニアはほんの一握りに過ぎない。

そこで、ドライグリップに偏らない高性能・高価格のブランドが現れた。それがEXPEDIAである。横浜がA.V.S.というブランドを立ち上げているのを見て、同様に欧州タイヤのような全方位高性能を目指したのだろう。

EXPEDIAには新車純正装着用とリプレイス用の双方が用意されていた。

POTENZAよりも上位で、すなわちブリヂストンのフラッグシップになったEXPEDIAはとても高価格であり、それに見合うだけの価値がありそうな全方位高性能を謳 っていた。そういうところに私はとても良いイメージを持ち、いつかEXPEDIAが似合うようなクルマに乗りたいと思ったものである。それは取りも直さずFD3S(RX-7、EXPEDIA S-07を装着)を指すのだが。。。

だが、事情により私はFD3Sを選ぶことはなく、GC8インプレッサを買った。その純正装着タイヤは、どういうわけかEXPEDIA S-01だった。なぜEXPEDIAなの??? 私は憧れのEXPEDIAが付いてきたのに嬉しくなかった。GC8は速く楽しく走るために買ったのだから、POTENZA(RE71系)のほうが似合うと思ったのだ。実際、中山サーキットを走らせたところ、グリップ力が低すぎて 、他車と同じように走ることができず、かなり無理を強いたため、たった1日で外側トレッドがボロボロになってしまった。まあ富士重工としては公道での全方位高性能を目指すGC8にはEXPEDIAが良いと考えたのだろう。今になってみればそれも分からないこともない(GRBインプレッサSTIのタイヤ選定で も同様の思想が感じられる)

しかし、EXPEDIAの存在感はあまり高まることがなかった。その頃はまだ日本人に目の肥えた客がおらず、全方位高性能のタイヤを求めていなかったのだろう。EXPEDIAに憧れた私でさえその価値を認識しなかったのだから 。。まあ現実問題として日本で高速道路を200km/hで走ることなんてないし、ましてや雨の中で飛ばすなんて考えられなかったので仕方がない。そして、残念なことにEXPEDIAは廃止され、さらに横浜のA.V.S.も鳴かず飛ばずであった。

【ブランド迷走】

成熟していない日本の市場に気付いたブリヂストンはEXPEDIAのブランド戦略を諦めたのだろう。GC8の新車純正タイヤは途中からPOTENZA S-01になった。なんだ、それは??? 私は目を疑った。POTENZAに名前を替えればいいというものではないだろう!!! いくら客が成熟していないといっても、あまりにも客をバカにした行動ではないか。

POTENZAが装着されたGC8を買った人はどう思ったのだろう。EXPEDIA S-01からPOTENZA S-01に刻印が変わってもたぶんタイヤそのものは何も変わっていないはずなのに、「POTENZAが付いているっ!!!」と喜んだのだろうか? 喜んだ人が多かったというのなら、私はもう何も言えない。

そうしてEXPEDIAは消えていき、POTENZAにはDAGGやらGV(なんでGRIDがPOTENZAに化けるの???)という派生モデルも現れ、なりふり構わぬ展開となった。でも、それらが後継のない一発屋でしかなかったというのは、失敗を意味するのだろう。

*:POTENZA DAGGを履いたNA6ロードスター(脚変更、ロールケージ有)を中山サーキットで走らせてみたところ、なかなかタフな剛性感と高いグリップ力が感じられた。だが、オーナーの息子がドライブしていたとき、コントロール不能によりコースアウトし、大破した。

【新しい銘柄 RE050】

ブリヂストンが欧州での販売を伸ばすために取った作戦としてFormula 1へのタイヤ供給があった。ブリヂストンの名前を売るとともにPOTENZAブランドも広めるべくタイヤに施された白いペイントが目立っていた。

POTENZA RE050は欧州の高性能車のニーズに合わせたタイヤのようで、純正採用される例が増えて、F1と併せて欧州での知名度が高まっていったと思われる。

RE050のポリシーはEXPEDIAと変わっていないのだが、欧州でPOTENZAブランドに統一した宣伝活動をすることで成功した。ブランド構築とはなかなか大変なもののようだ。

【日本におけるRE050】

日本車にもRE050が新車純正装着されることが多くなった。それは日本車の性能がバランス良く高まってきたからなのかもしれない。いや、日本人が舶来モノに弱いという心理をくすぐり、「欧州高性能車と同じタイヤを履いている」ことが商売に有利だと考えて採用していると想像することもできる。たぶん後者のほうが強いと思う。

まあRE050といっても新車装着用は車種ごとにトレッドゴムの性質やタイヤ剛性は微妙な変更を受けているのは間違いない。実際、BL5レガシィ用18インチとGDAインプレッサ用17インチではまったく印象が異なるのだ。それはホイール径が1インチ異なることが要因とは思えないほどの大きい差異である。

そうなると、リプレイス用のRE050はいったいどんな性質なのか知りたくなってしまう。だが、的確な情報がほとんどないのが現状である。つまり、純正装着タイヤが減った後でRE050が再び選ばれることがあまり多くないようだ。

POTENZAという名称は今や多くの人が認知し、F1タイヤと同じブランドだと分かっているだろう。しかし、200km/hでの高性能を目指したタイヤは多くの日本人にとって今でも「自分に関係のないもの」であり、限られたマニアがファンになってくれているだけのようだ(EXPEDIAの時代とあまり変わっていない)

もしくは飽きっぽい日本人の性質にも拠るのだろうか。純正でRE050を知ったから次はADVAN Sportにしよう、なんて思うのかもしれない。Loyaltyを維持する(客の好みのブランドを固定化する)のもたいへん難しいようだ。

【RE050の後継】

RE050の時代は長く続いたが、先ごろ、リプレイス用タイヤのフラッグシップとしてS001が発表された。

S001だなんて。。。これはEXPEDIAの再来じゃないか!!! 発売されたら新車装着タイヤにもなるのかな?

元々RE050がEXPEDIAの流れを汲むモデルだったのだから、こうなるのも不思議ではないが、「RE」をやめて「S」を冠するなんてまた魅力的なことをするではないか! POTENZAブランドが残っているのがいただけないが。。

まあそれも世の趨勢なので仕方がないのか。

横浜タイヤにおいてもA.V.S.はもはや消滅したも同然で、POTENZAの後を追いかけるような形でADVANブランドに統一して世界に向けて高性能イメージを発信していこうとしている。

 

【BL5レガシィの次のタイヤは】

レガシィの新車装着タイヤ(RE050)はだいたい3万kmほどで交換する人が多いとSUBARU販売店で聞いたが、私のBL5Dのタイヤはどれぐらい減っているだろうか。

3年で2万kmほど使ったタイヤ(215/45R18)の溝の深さを測ってみたところ、7mmを少し切る程度であった。

新品の溝の深さを知らないので(たぶん8〜9mm)、どれぐらい減ったのか定かではないが、1万kmで1mmの割合で減っていくのならまだ3万km(4年以上)は持つのではなかと思う。

また、17インチのRE050の残溝は5.5mmもあったので、これもまだ1.5万kmぐらい使えそうである。

ということは、次は「減ったから換える」というよりも「古くなったから換える」になると思う。その頃にはどんな銘柄が最新版として存在するだろう。ADVAN SportかPROXES T1Rの新型が出ていたらいいのに(S001も気にならないとは言わないが)。

なお、フロントタイヤ(写真)にはマイナス1度のキャンバが付いているのだが、接地の感じはなかなか良好に見えるので、内側だけが極端に早期に減るようなこともないだろう。December 2009

 

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