ZTは基本的にROVER 75と同じクルマで、スポーティなイメージを演出したグレードである。ボディ補強、エアロパーツ、サスペンション設定、タイヤ・ホイール、シート等が主な違いで、ATのシフトスケジュールも見直されているらしい。
運転席に座ってみると、目の前には75と同じ形状のダッシュパネルが存在するが、表面の材質が異なるため印象は大きく違う。シートはアルカンターラ張りの硬めのスポーティタイプで、サイドサポートは大きく、体をしっかり保持してくれるので運転しやすい。ただ、400万円のクルマなのにシート調整機構が手動式になるというのは、ちょっと手抜きではないかと思う。
試乗は雨の中、箕面の山へと向かった。久しぶりにお猿に会うため…
道幅の狭い山坂道では大きいボディを持て余すかと心配していたのだが、それは杞憂に終わった。車両感覚が分かり易いので、すれ違い時に左に寄せることは簡単にできた。
ステアリングを忙しく左右に回し、スロットルを小刻みに操作していくうちに、このクルマは日本の狭く険しいワインディングロードに向いていないと感じるようになった。ステアリングに伝わる情報が少なく、しかもクルマが重い印象を受けたのである。舵角がステアリング上で左右それぞれ90度までで走る道なら楽しく運転できると思う。
濡れた路面でのトラクション性能を確認するため、上り勾配のカーブで2ndギア全開加速をしながらセンターラインを踏んでみた。するとTRCの警告ランプが点灯して注意を促してきた。ステアリングホイールにも一瞬タイヤが滑った感触が伝わってきたが、過剰な駆動力だけを上手にカットして、前進を阻むような無粋なことはしなかった。
山道を下っていると、ATのアダプティブ制御が作動してシフトダウンが予想以上に行われ、スロットルを開けないと速度が維持できないという状態になった。MTに慣れた身にはお節介だと感じてしまう。ダウンシフトは運転手に任せてもらいたい。
225/45R18という幅広の大きいタイヤを履くスポーティな外観のZTは、フワフワではない適度な硬さの乗り味をもった静かなファミリーカーであった。MGはスポーティというのはあくまでもイメージ上のもので、期待しすぎるのはよくない。ROVER 75はお年寄り向け、ZTは40歳以上の気持ちが若い人に合うような気がする。